おどけた素振りで

アイのコクハク

もちろんキミは

いつもの調子で

・・そっぽを向いた・・

 

 

 

SWEET HONEY

 

 

 

 朝、目が覚めて。

 昨日ベッドになだれ込むように眠ったまま、つけっぱなしだった腕時計を覗く。

 7時16分。

 3学期に入って初めてじゃないか、という起床時間に、亜久津は面倒臭そうにベッドを降りた。

 

 グレーのカーテンは引かれたままで、薄暗い部屋の中、クローゼットに掛けられた制服をハンガーから外し。

 ついでに床に無造作に置かれた財布を拾って、廊下に出る。

 気が向いた時しか履かないスリッパが、今日ばかりは必要だったかと思うほどに冷えたフローリングを、けれど無表情で踏みしめて階段を降りると、階下はシン・・

としていて、ハハオヤの不在を告げていた。

 居れば居たで、朝からヒトの名前を連呼した挙げ句に、食えるわけねーだろ!!という量の朝食責めにあうのである。

 

「チッ・・」

 

 机の上のメモ書き。

 一端夕方戻った後は、夜勤になるという旨と、何故か今日くらい学校に顔出しなさいよ、と書かれたソレを見て。

 授業を受けろとは書かないあたり、息子の性格を心得ているな、とぼんやり、しかしどこか悔しいように感じる。

 見透かされるのは、人一倍、好きじゃねぇ。

 

 しかも、そんなメモ書きのある日に限って早起きした自分が恨めしい。

 寝直す気にもなれず、優紀がセットしていった珈琲サイフォンのスイッチをオンにすると、亜久津はバスルームに制服を持って移動した。

 

 外との気温差を考えると、あまり熱いシャワーを浴びる気にもなれず。

 頭も乾かすのが面倒で、長い前髪を湿らせる程度の湯気の中から出ると、身体をザッと拭いて、シャツを被り、後は適当に制服を着る。

 習い性のように髪を上げ、ようやくクリアになった視界に、まだ眠気の覚めきらない顔が目の前の鏡に映って見えた。

 

「・・メンドクセー・・」

 今更ながら、どうしてあの時ベッドから降りたのか。

 それを考え出すと、イチイチ目が覚めてからの行動を思い返して苦々しく思わなければならないような気がして、尚更、機嫌が下降していく予感。

 いっそのこと、寝直してやろうかともチラリと思ったが、それも制服まで着た今となっては癪に障る。

 くだらないジレンマ。

 まだ、脳味噌が寝ている証拠、か。

 眠りに戻りたいというカラダからの催促だろう。

 ・・とりあえず、それを振り切ってキッチンに向い、出来上がった黒い液体をマグに移して、電源をOFFにする。

 そのまま飲むのではなく、冷蔵庫から持ってきたミルクを注ぎ、砂糖は流石に入れない。

 基本的に朝は寝て過ごす為、亜久津には朝食を摂る習慣がないといって良いので、朝飯はこれにて完了。

 時刻は、7時52分。

 恐ろしいほど健全な登校時間となっていた。

 

 

 

 

 

「………」

 

 とりあえず。

 とりあえず、なんだ。

 亜久津は、本当にとりあえず、薄いカバンを持ち、家を出た。

 そして、ドアを開けた瞬間、こんな日に朝っぱらから起き出した己を心底恨めしく思った。

 

「ウソくせー…」

 

 そう、亜久津が呟いた光景。

 

 一面、何処を見渡しても真っ白。

 まさしく銀世界。

 時折、ドサリ、と聞こえるのは電線から白い塊が落下した音だろう。

 

 こんな中、よく優紀は出て行ったな・・と。

 かなり本気で亜久津は呆れ半分、感心していた。

 

 そして、よくよく考えれば。

 自分がこんな有り得ない時間に起き出したのも、カーテンの向こうが雪の照り返しで昼間のように明るかったからだと思い当たる。

 もちろん、ムッとはしたが、自然現象に当たり散らすほど馬鹿でもないので、亜久津は憮然とした顔のまま、相変わらずの薄着で家の門をくぐった。

 

 キラキラと、やたらと輝く四方と、革靴では道の端がアイスバーンになっていてとても歩けたもんじゃないのに、チッと舌が鳴る。

 戻るなら今の内だ、と頭の中では思うのだが、引き返すのも出てきた労力がすべて無駄になる気がして、潔く良しとは出来ない。

 起きてからずっとこんな不毛な脳内葛藤ばかりで、いい加減亜久津はうんざりしている。

 自分の脳味噌の中のことだとはいえ、本人はどっちもやりたくない、と一番どうしようもない考えが素直に一番強いのだから、やっぱりこの終わりの見えない論争は

しばらく続きそうだった。

 

 この調子では電車も止まっているのだろう、通学時間にも関わらず、徒歩で移動する人間は少なく、自転車に乗った学生も見かけない。

 流石にこんな日にまでチャリを持ち出すヤツもいない。

 私立とはいえ、義務教育機関であるからして、そうそう簡単に休みになるワケがないか、と。

 先程からポツリポツリ見える、自分と同じ色の制服を分厚いコートの下に着込んでいるのだろうヤツ等をぼんやりと目の端に捕らえながら、亜久津は歩みを留めるこ

ともなく進んでいく。

 

「…?」

 

 革靴の底が冷たく感じられるようになったのを煩わしく思い出した頃。

 亜久津は、妙に耳に触るな・・と、ふと視線を上げた。

「…………」

 そして、すぐに見なかったことにして、あと僅かになった学校までの道を歩くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 ・・亜久津が見なかったことにした先。

 そこには、雪に驚くほど映えるオレンジ色の髪がふわふわと揺れていた。

 

「あ〜、ありがとうね〜♪」

 

 にっこり、と。

 彼の目の前にいる、制服姿の女の子数名が思わず真っ赤になって下を向いた程に甘い笑顔を向けて、山吹の1学生が手に沢山のプレゼントらしき包みを抱えている。

 おそらく、ご近所界隈で何かと話題の尽きない私立・山吹中学でも、上位を争う有名人。

 千石清純、そのヒトである。

「あ、じゃぁ、オレそろそろいくね!皆、転ばないように気をつけるんだよ〜?」

 送って上げたいんだけど、オレもガッコだから。

 なぁんて、また笑顔の置きみやげをして、千石は女の子達に手を振り、別れを告げた。

 腕の中で、ガサリと音を立てるラッピング。

 色トリドリのそれは、この真っ白な世界では、どこか異質な存在に映った。

 

 背後に、女の子たちの歓声を聞きながら、千石は雪道にも関わらず、軽い足取りで走り出す。

 指定の革靴ではなく、テニスシューズを履いているので、足音もほとんどない。

 

 助走、加速、ホップ・ステップ・・

 

 ダ〜イビング!!

 

 

 

「やっほ〜!!あっくん、オハヨーさん☆」

 

 

 

 ドォォォンッ!!

 

「グッ・・テメェ・・!!」

 流石に、両手はプレゼントで塞がっているので。

 いつもならば背中にへばりつくところを、後ろからタックルを掛けるようにして、広い背中に衝撃とともにひっつき倒す。

 そして、矢継ぎ早に話し始めてしまえば、こっちのもの。

「や〜ん、爽やかな朝からあっくんご機嫌ナナメ〜?ってか、スゴイ雪だよね〜。サスガ異常気象!!」

「…オイ」

「でもさぁ。あっくんが、こんな朝早くから登校してんのなんて初めてじゃない?

 異常気象ってより、あっくんのせいだよね〜、この大雪ってさ。

 予報すら出てなかったんだもん、スゴイね、あっくん。気象庁と自然の摂理に勝っちゃったね☆あ、JRと私鉄にも勝ったよ!!もう、新幹線もビックリ!!」

 

 さて、今までで何回あっくんって言ったでしょう〜?

 ニコッ。

 

 これで、完全に亜久津は絶句状態である。

 

「………………ウルセー…」

 そして、脱力したように、ボソリと一言。

「え〜?朝から千石くんのミラクルボイスによる絶好調なマシンガントークの一部お披露目だったのに、あっくん、ご不満〜?」

 今度は、打って変わって悲しげな様子で、下から見上げてじ〜っと見つめると、薄気味悪いものでも見るような目つきで亜久津が少し肩を引く。

 あ、ヒドイ。

「・・と、まぁ。それはさておき。」

「置くな・・」

「えぇっ!?じゃぁ、もう4・5分弾丸トークいってみようか?!お題は『我が愛しのあっく…って、イッタァァァァイ!!」

 ゴイン、と頭頂部に落ちた鉄拳に、千石が大げさに痛がる。

 派手な音ではあったが、避けようとすれば避けられたものなのは、悔しいが亜久津も先刻承知なので、もう3発位入れてやる・・とばかりに拳を固めている。

「も〜・・痛いなあ。ま、でも・・いっか。ふふ、今日は朝からあっくんに逢えたんだもん♪」

「気味ワリィ・・」

「そう言わないでよ〜!!だって、今日、こんなじゃん?あっくん、てっきりお家でおねむかと思ったんだもん。」

 誰がおねむだ・・と青筋立てつつも、亜久津は普段なら間違いなく出てこなかっただろうというのは自分でよく分かっていた。

「いーだろーが。ヒトが居よーが居まいが。」

 ケッと言い捨てて、亜久津が緩んだ歩調を元に戻す。

 馬鹿の大声で、いらん注目を浴びた。

 

「あ、あっくん待ってよ〜!!一緒に行コ?せっかく逢えたんだもん♪」

 スタスタ、亜久津が長いリーチでもって歩き出すと、千石がパタパタパタパタ小さな子供みたいな足音を立てて追いかける。

 気配を殺すとなると、完璧に消してみせるくせに、妙に自己主張するそれに、亜久津が不機嫌そうに眉根を寄せた。

「ね〜、ね〜、あっくん。」

「んだよ・・」

「もう、そんな可愛くない顔しないでよ〜!!あ?まだ眠い?でも今日は保健室じゃなきゃ寝れないよ?屋上きっと豪雪地帯だもん。

 ま、どうしてもっていうなら、毛布持って、コートもって、膝枕に行ってアゲルよ〜vv」

「黙れ。だいたいテメェのが体温低ぃーだろーが。役立たずが。」

「ヒッド〜イ!!オレ冷え性じゃないもん!!通常体温だもん!!だって、あっくん新陳代謝激しいんだもん〜!!

 平熱7度越えてるヒトに言われたくありません〜!!あっくんの子供体温〜!!」

 うぇ〜ん、と、ダダッコ全開、なのに口だけは大人以上に回転する千石が、一息に言い放って、亜久津にタックルをかます。

「イテェなァっ!!テメーはさっきからナンなんだっ!?」

 背中ならいざしらず、モロに正面から腹に千石の突撃。

 しかも、今日はオプションでカラフルな箱の角がもれなく突き刺さってくる。

「あれ?あ、刺さっちゃった!?うわ〜、メンゴ・メンゴ☆忘れてたよ、コレのこと〜!!」

「忘れんな!!」

「無理!!オレ、最優先事項、あっくんだから!!」

 怒鳴ると、ドきっぱりと断定形の回答。

 一瞬の間の後、亜久津が「んぁ・・!?」と、何とも言えない表情で固まった。

 

「?あ〜っくん〜???」

 フリーズしている亜久津に、千石が首を傾げて目の前で手をヒラヒラさせてみる。

 あれ?オレってば、そんな刺激の強いコト言っちゃった?

 と、千石がポリポリと頬を掻いた瞬間。

 

 

 

 

 

 

「・・なら、尚更、覚えとけよ…」

 

 

 

 

 

 

 ボソッと、雪に紛れそうな、そんな一言。

 そして、クルリと踵を返すと、千石に背を向けて歩いて行ってしまう。

 

 

「…………………」

 一方。

 置いていかれた千石は、というと。

 

 ポッカ〜ン、とした顔の後。

 通り過ぎていく山吹の生徒達が、不思議そうな顔で眺めていくのも気づかない様子で、ただじっと亜久津の背中を追っているようだった。

 ・・というか、脳内フル回転中で、他に労力を払っていられないというべきか・・。

 

(え…?どゆコト?)

 

 覚えとけよ、ってコトは、オレ、何か忘れてたんだよね・・?

 

 忘れて・・あ、オレ怒られて・・ナンデだっけ???

 

 あ〜・・箱の角、モロあっくんにブッ刺しちゃって、それで・・って。

 

(まさか・・)

 

 え・・?

 

 えぇっ・・!!??

 

 『覚えとけ』・・って・・

 

 

 ヤキモチなんか期待してないケド・・

 亜久津に、『大事な』亜久津に、

 ・・『刺さるようなモン』、

 それ、忘れるなって・・

 『覚えとけ』・・って・・

 

 

 そ、そ・そ・そ・そーゆーコトッなワケッ!?

 

 

「あ、あぁぁ・・あっくんっ!!」

 

 珍しく慌てた様子で、千石がバッと顔を上げた。

 そして、今にも正門に吸い込まれそうになっている亜久津に向かって大声で呼びかける。

 

 ・・めんどくさそうに一瞬緩んだ足取りを、見逃すはずがない。

 一気に加速するけど、ままならない雪道、心なしか言う事聞かない両足。

 

 

 うわ、ヤバ・・

 顔が緩むんですけど!!

 

 

「あっくん、待って!!」

 

 緩んだだけで、止まってはくれない亜久津の足。

 追いかけて、追いかけて。

 また、怒られるのを承知で、千石は亜久津に飛びついた。

 

「あ〜っくん〜!!!」

「テメェ・・」

「あっくん、あっくん、あ〜っくん〜!!!」

 

 グリグリグリグリ・・!!

 額に青筋立てて見下ろしてくる亜久津におかまいなく、千石はゴロゴロと喉を鳴らさんばかりの様子で懐き倒す。

 通り過ぎる一般生徒には、千石に立派な猫耳・猫シッポが見えたとコトだろう。

 

「・・ったく、オイ、離れろ!!」

 体を半分返したところで抱きつかれたため、左脇腹にしがみついたままの千石を、亜久津が呆れたように引き剥がしにかかる。

「いや〜!!」

「イヤ、じゃねぇよ!!」

「だって、だって、あっくんがカワイイんだもん!!あっくん、ケナゲなんだもん!!あ〜、もう、どうしよう!!頭痛じゃないよ、眩暈しそうだよ〜!!」

「ハァッ!?」

 とうとう頭が湧いたか?

 亜久津はかなり本気で、千石の頭を見遣る。

 しょっちゅうドツキにかかったのは事実だが、ムカツクことに、おかしくなるほどヒットさせた覚えはない。

 

 しかも・・心なしか、千石の頬が赤いのは気のせいだろうか・・。

 いや、気のせいだ。

 いっそ、清々しく気のせいにさせてくれ!!

 

 薄気味悪いものでも見るような目つきで、ひっぺがそうとしても引き剥がれない千石を、亜久津を始め雪中行軍よろしく登校中の山吹の皆さんが遠巻きにしながら見

つめている。

 

「いーから、どけっ!!・・つぶれてんぞ!!」

「いいもん!!俺はあっくんしか大事じゃないもん〜!!」

「大事にせんでいい!!」

「する〜!!してやる〜!!一生、あっくん構い倒して、ナデナデして、キスしまくってやる〜!!」

「ほざけ――――っ!!!!」

 ブチンッ!!と派手な音と共にキレたらしい亜久津が、千石の手首からむこうが塞がってるのをいいことに、それでも避けられるのを警戒してか、殴るのではなく、

強烈な頭突きを食らわせた。

 

 ゴスッ…!!!

 

「…言い残すことは?」

「あっくん、大好き。」

「…死ね。」

 

 ジンジンする額をものともせず、千石は「やだなぁ、」とヘラヘラ笑う。

 その首を、かなり本気で締め上げながら、亜久津がチラチラこちらを見ている生徒達を視線で殺人未遂が起こせそうな勢いで睨み付けていた。

「ま、まぁ、コレはちょっと位つぶれてもダイジョ〜ブ♪食べれればOK!!でさ、あっくん、コレちょっと持ってて?」

 異常に打たれ強い精神構造の持ち主なのか、ただ単に何事をも感知し得ない超ド級に鈍感な神経をしているのか知らないが、亜久津は、ちっとも懲りていない様子の

千石に、魂が出そうな程・・日本海溝より深く、ブラックホールより底なしな溜息をついた。

「あ、うん、コレで最後。ちょっと待ってね、カバン開けるから。」

 うざったそうに、それでも千石の腕の中のプレゼントと思しき包みの山を右手一本の中に抱え込んで、亜久津はいっそ全部コイツの顔にぶつけてぇ・・と本気で思っ

ていた。

 

 色トリドリ。

 大きさも、不揃いと言えば不揃いだが、すべて掌サイズ。

 コレ以上なく贈り物だと主張している包みを、そういえば・・コイツ誕生日かなんかか?と亜久津はいそいそと千石がテニスバッグを開けるのを見ながらボンヤリと

考えた。

 ・・ってか、コイツ、雪積もってるってーのに、ンでテニスバッグよ?と、怪訝さを隠そうともしない表情で、千石を見下ろす。

 

「あ、ハイ。お待たせ〜!!あっくん、悪いけど、ソレ、こん中入れてくれる?」

「・・ウゼェ・・」

 見れば、千石のテニスバッグの中にはラケット一本入っておらず、このバカが、『この為』、にわざわざ嵩張るバッグを持ってきたのが分かって、亜久津はげんなり

とした。

「?悪かったって、荷物持ちさせちゃってさ。でも、両手塞がってちゃ困るんだもん!!」

「あぁ???」

 何か、見当違いなことを謝ってくる千石。

 亜久津は、千石のワガママには嬉しくないが慣れてしまっているので、こんなこと位では、イチイチ千石自身がシュンとする程怒ったことはない。

 ・・最近は。

 

「あ、もうすぐチャイム鳴るね。あっくん、は〜や〜く〜!!」

「・・うっせぇ。ンなモン、貰った時点で入れとけ。」

 ぎゃーぎゃーウルサイ千石に、もっともらしいことを言って、亜久津は要求通りに邪魔な包みをボトボトボト・・とテニスバッグの中に落とした。

 優紀あたりだと、「ちょっと、仁!!ランボーにしないでよ〜!!」と目くじらを立てるのだが、もちろん、その時同様、亜久津が聞くはずもない。

 千石にいたっては、それが亜久津だと思ってるらしく、自分宛の贈り物を無造作に扱われても、文句を言う気もないようだった。

「オラよ。」

「ん〜、あっくんサンキュ〜vv」

「・・別に。」

「あ、それでさ〜、コレはオレからあっくんに♪」

 バッグの中に満たされたプレゼントを見ていた千石が、ジップをいじりながら、亜久津に『そうそう』というカンジで話しかけた。

 なんだ?と、亜久津が下を向いたままの千石に、チラッと視線を移す。

 

 ・・それを、千石が見逃す筈がなかった。

 

 

 グイッ!!

 

 

「わぉ!やっぱあっくん、か〜わいいvv」

 

 

 パチパチパチ、とテニスバッグを背負った千石が、亜久津を見上げて拍手する。

 急に腕を引っぱられた亜久津は、何が起こったのか分からず、未だに目を見開いたまま。

「・・なっ!?」

「あ、あっくん、それ取っちゃダメだよ?」

「フザケンナッ!!」

 ようやく覚醒した亜久津が、さっさと違和感を感じる自分の頭に手をやろうとすると。

 千石が、もの凄い微笑みを浮かべて、最終宣告。

 

「あっくん。

 ソレ外したら、今ココで洒落になんないディープかつスウィーティーかつフルーティーなスペシャルキッス、バ〜イ・千石清純、をお見舞いするからね〜☆」

 

 恐ろしいほどに詳細な注文をつけて、千石が言い放ったセリフに、亜久津がオゾゾゾゾッと背筋を掛けのぼる鳥肌付きで、絶句した。

 

 ・・もちろん、亜久津以外で恐ろしいと思ったのは、それを聞いてしまった正門に立つ生活指導の教師と、偶然・・

 本当に、まったく、これ以上なくたまたま、通りかかった南と東方及び、健全な学舎に足を運ぶ山吹中の生徒さんたちである。

 

 それに比べれば、あの山吹で知らぬものはない曰く付きの不良、亜久津仁の真っ白な耳マフ姿など、物の数ではない。

 

「う〜んvvあっくん、やっぱり白がよく似合うよね〜☆色白で、制服・白ランで、ちょ〜っとブルー入ってるけど、ジップアップとお揃いでいいカンジ〜!!」

 もふもふ、と。

 千石が亜久津の耳に装着したマフを触って、ご満悦に聴覚から溶けだしそうな声で、ノロケと思しきセリフを垂れ流しにしている。

「それに、今日はおあつらえ向きに、まっしろまっしろ、雪景色〜vvあっくん、もあもあで、雪ウサギみたいで超ラブリーvv」

 

 ・・亜久津は、どこかに魂を飛ばしたらしい。

 

「あ〜っくん?感激のあまり言葉もない?」

「…」

「でもさ〜、あっくん、いっつもマフラーもしないし、コートも着ないし、いっくら体温高っくっても寒いでしょ〜!?」

「…」

「それに、耳って、どんなに頑張っても暖っためらんないもんね〜!!あっくん、色白いから、赤くなっちゃうとすっごい分かりやすいしさ〜!!」

「…」

「ってワケで、コレ、オレからのプレゼント、ね♪」

 もふっ。

 得意げに、亜久津の耳を覆うマフを触って、千石笑顔の宣言。

 言外に、もらってくんなきゃ、スゴイことしちゃうよ〜vvというオーラが滲んでいる。

 

 ・・遠くで、南が目頭を。

 東方が、コメカミを押さえていた。

 

 

「す…」

 

「す?」

 

「好きにしろっ!!」

 

 ガィンッ!!

 

 

 

 このときばかりは、真っ赤に染まった亜久津に見とれて。

 千石が俯いた亜久津の繰り出すアッパーに対応できなかったのだが。

 

 

 

 ・・結局、授業のなくなった山吹のテニス部室では、人気が引くまで帰らないと煙草片手に暇つぶしを決め込んだ亜久津の膝で。

 千石がゆうゆうと惰眠を貪っていたらしい。

 

 

 

 

 

 回り中に散らばった女の子達からのチョコレートも。

 真っ白だった雪景色も。

 

 思わず溶けちゃいそうな、そんな午後の一時でした。

 

 

 

END

 


 

あっくん、雪ウサギにされる、の巻。(爆)

優紀ちゃん、流石にバレンタインくらいガッコ行きなさいねvvと宣うのは良いのですが。

山吹は男子校です、ということで。(笑)

多分、あっくん、太一くんとかから「亜久津センパイ、ハイです〜♪」とかって、貰ってそうですよね。(^^)

女の子からのは受け取らず(下駄箱・・か、襲撃)とも、千石くんと太一くんは無碍に出来ない。(←なんかオーラが怖いらしい)

太一くんのは無邪気オーラ。

千石くんのはディープなラブのオーラ。(←日本語で書くととってもディ〜プ)

・・あっくん、せめてもの抵抗に、人気が絶えてから下校するつもりらしいですが。

おそらく、この後、優紀ちゃんに目撃されます。(><)

そして、毎日つけて登校するハメに陥ります。

優紀ちゃんのオーラは、千石くんとニアリーーコールです。(笑)

そんなあっくんに、ハッピーバレンタイン☆

 

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