ここは何処?
ここは何処?
帰る住処を失った魚たちは惑い惑う
泳ぎ着けないなら、マリンスノーに
それが、ここの掟
〜 シルバーアッシュに接吻を 〜
カラン・・
「いらっしゃいませ」
また、ケリーアのイエローライトをくぐり、ダークブラウンのスーツが優雅に現れた。
「やぁ、こんばんは。」
ふわりと微笑んだ男に、あぁ、あの・・という顔をしたホール係は、どうぞ、とカウンターへと道を作る。
ゆらゆら、波間をたゆたうように、そして楽しげに遊ぶように、男は革張りのスツールに歩み寄る。
「お邪魔するよ、」
今夜も、微動だにせずオーダーを待つ銀髪のバーテンダー。
そんな彼に一声かけて、男は自分の席、と決めているかのように、中央のスツールに腰を落ち着ける。
バーテンダーの方も、特に移動するでもなく、かといって視線を遣るわけでもなく、不思議な空気が二人の間に流れていた。
「ご注文は?」
そして、そんな雰囲気に水を差すでもなく、この間の夜と同じくホール係がオーダーを取りに来る。
「今日はハイ・ハットで。」
悩む素振りもなく、ホール係に笑いかけると、男はまたバーテンダーに向き直り、それきり優しい背中を見せるだけ。
ホール係は、声を掛けたがる女性たちの気配も感じたが、そうなるともう、近づけないような気になってしまう。
なんて、雰囲気のある客なんだろう。
それが、素直な感想だった。
「今日はお土産があるんだ。」
オーダーが流れ、また見惚れるような仕事振りでオレンジ色のカクテルを生み出し、カウンターに差し出すと。
男はコトリ、と何かをスーツの内側から掌に納め、そしてグラスに並べるようにして置いた。
それに、チラリとバーテンダーの視線が揺れる。
誰にも分からないほどの些細な変化だったが、男はそれを見付け、嬉しそうに笑った。
「綺麗でしょ?」
まるでアナタみたい。
悪びれる風でもなく。
口説く風でもなく。
風変わりな客は、そう言って、小さな銀色の欠片を触った。
途端に流れる、コポコポコポという小さな音と、オルゴールの旋律。
時間ごとに色をかえるグラスファイバーが揺らめくのを、ホール係は、おや、という顔で見ていた。
「曲はね、オレのオリジナルになるのかなぁ・・?まぁ、そんなカンジ。」
チリチリと音が聞こえてきそうな光の粒子を、指先でふわりと撫でて、男はそのままグラスを煽る。
コクリ、と喉が音を立てると、「おいしいね」とゆっくりと破顔した。
バーテンダーは、やはりどこか遠くを見ていた。
「じゃぁ、行くね。・・ごちそうさま。」
カタリとスツールを降りると、男はまた「チェックを。」と一言。
こんな夜更けに現れては、カクテルを1杯所望する。
そして、語る術を表さぬバーテンダーを相手に酒を美味そうに煽ると、去っていく。
それが、この客のスタイルなのだろうか?
「あぁ、それはアナタが持っていて。」
カウンターの上に置かれた不思議なオルゴール。
持ち主を求めるように、ユラユラと揺れるグリーンケルプを見て、男は言う。
「溺れてしまわないように・・」
コポコポコポ・・
繊細な旋律に混ざるのは、水面に登る水泡の音なのか。
青い空気に紛れて、行方は知れない。
けれど。
「…」
バーテンダーの白い指先が、初めて、カウンターの上に伸びたのを、男は満足そうに見遣って、去っていった。
シャラリシャララ・・
透明でいて、虹色を映す幻の糸に。
白い指だけが、触れていた。
To be Comtinued・・・
あっくん、貢ぎ物をされる、の巻。(笑)
千石さん、口説きの常套手段を踏んでいる模様。(語弊)
でも、なんだかちょっと脈アリチックで、ウキウキです!!
でも、深海のあっくん、そう簡単には、どうこできないのが、また。
千石さん、頑張れっvv
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