どうしてこんなに好きなんだろう
言い訳じゃなく
最高の
口説き文句
LOVE FLOWER
「ね、あっくん。仁ちゃん。亜久っちゃん。」
屋上の鉄柵にもたれてお昼寝中の、山吹きっての不良サン。
銀色の髪は今日も風にも靡かないほどきっちり整えられてて、これが放課後になると少し元の隠しきれない髪質の良さが出てくるんだよね、と。
千石清純(14歳)は、その白い額に唇を寄せるようにして囁いた。
「亜久津、あ〜ちゃん、ねぇ、ジンちゃん。」
まだ起きてくんない?
そう言いながら、千石はふわふわと、亜久津の顔にくちづける。
別に手入れをしてるわけじゃないけど、やっぱりキスするには痛くない唇がいいよね、なんて。
白い肌に触れるたび、傷つけるのがもったいない・・そんなふうにどこかで思っている自分がいる。
「・・るせぇ・・」
ややして、ふるりと睫を揺らし、亜久津が起きる。
それを腕の中に抱き込むようにして、千石が顔を傾け、笑顔で迎えた。
「おそよう、あっくん。ゴメンね、まだ眠い?」
太陽は沖天を過ぎ、やわらかな日差しはちょうど最高潮。
ぽかぽかとした温かさは、熱を伝えにくい白い学生服にも保たれていて。
こんな日に無音の屋上にいれば、そりゃぁ眠くなるよね、と千石が笑った。
「あ〜・・まぁな。」
寝起きだからだろう。
亜久津は自分の足を跨ぐようにして膝立ちになっている千石が、腕を回して肩を正面から抱き込んでいるという、普通なら有り得ない至近距離にも、どこか反応薄。
ふぁ・・なんて無防備にアクビなんてしてみせて。
そういやぁ、ンでオマエが居るよ?
亜久津が。
両腕がオレが邪魔で上がんないのに気づいて、ヒトの肩口に顔を埋めて目元をこする。
ちっちゃい子供みたいだね、あっくん。
「うん?あ〜、なんかね、いいお天気だし、あっくんココだろうな、って思って。」
来ちゃいました。
千石が、亜久津の髪に唇を埋めて呟く。
「数学・・」
「あ、覚えててくれたんだ?うん。ちゃんと小テストはやったよ〜。」
「・・ふん。」
「えへへ。でもね、あっくんきっとお昼寝してるよね〜って思ったら止まんなくなっちゃってさ。」
さんざん朝から面倒くさいよ〜!!ってダダこねるみたいに、さして問題でもない数学の時間に20分使ってやる二次関数の小テストを騒ぎ立てていた。
ヤダヤダ言うと、あっくんが「しょーがねーヤツ」って、前に髪をくしゃってしてくれたから。
案の定、今回も「テメーはシナプス繋がってんだろーが」なんて、実は結構理科得意?っていう発言であっくんは、右の耳たぶをちょっとつかんで引っぱった。
バーカ、なんて憎まれ口もついてきたけど、それだって可愛い照れ隠し。
「結局サボリだろーが。」
気が済んだのか、肩口に目元じゃなくて、白いほっぺた預けたあっくんが屋上のコンクリートに視線を落として、まだどこか眠りをはらんだ声で言う。
「そ〜なっちゃうねぇ、先生的には。」
「・・テメー的には?」
「恋はノン・ストップよ〜☆キヨくん、あっくん大好きですから〜♪」
「回路断裂してっだろ、テメーの脳味噌はよ。」
「あ、ヒッド〜イ!!朝はシナプス形成済みって言ってくれたじゃん?」
「おベンキョの脳味噌とは別回路だろーが。」
バカ言ってんじゃねーよ。
亜久津はまた欠伸をひとつついて、目尻の雫を白いガクランで拭う。
もちろん、オレの肩で。
「じゃぁ、いつものオレはバカなの〜?」
まだおねむだね、ゴメンよ〜。
そう言いながら、千石は亜久津の髪を抱きしめてほっぺたを埋める。
「あ〜?さぁな・・」
「あっくんはバカじゃないよね〜。」
「まぁな。」
「うわ、即答だよ、あっくん!!ふふ、ほらさ、あっくん、格好いいよね〜vv」
やっぱり寝起きは、テンションが上がりきっていないからだろう。
亜久津は髪を気にするでもなく、千石の好きにさせている。
千石の触るすべてはいつもひどく慎重で。
亜久津はそれに関して、どうこう言うつもりもないようだった。
・・割れモンじゃねー、と。
一度だけ呟いたことはあったが。
「・・で?」
「うぅん?どったの、あっくん?」
「その妙なテンションはどっから来てんだよ。ネジはハナから緩んでんだろ?ついに飛んだか?」
煙草を吸おうにも、千石が真正面から抱きしめてきているのでポケットにも手が伸ばせない。
寝起きの乾いた喉に煙をそそぎ込むのも気分じゃなく、まぁいいか、とオレンジ色の襟足へと顔の向きを変えてやった。
「ネジか〜。そうだね〜、あんまりポカポカ気持ちいいし、ちょっと浮かれ気味?みたいな。」
言葉通り、ふわふわどっかを漂ってるような話し方に、亜久津が「あっそ」と気のない返事。
元から奥とか底とか裏とか、そういうのをあるのかどうかも見せない、悟らせないのが上手なようだったから。
亜久津は浮ついているようでいて、どこか沈んでいるような気がするのはあながち外れじゃないとは思いながらも、別に千石をつつこうとは考えない。
ガキみてーに、ヒトの体温と心音が好きなコイツは、たまに・・本当にごく稀にこうやってくっついて、キスして、抱きしめるのが大好きなワガママ小僧になる。
「あ〜・・でも、ホント、あっくんイイ匂い〜・・眠くなっちゃうよ〜・・」
「ヤニの匂いがイイたぁ、テメー将来、棺桶に足突っ込む原因決定だな。」
「ん〜・・あっくんの副流煙だったら恨んだりしないから、安心していーよ〜。」
「そりゃぁアンガトサンよ。半世紀も吸ってりゃ、テメーの寿命は3割減だ。」
「あはは。最後に入るトコ一緒なら寂しくないよね〜。あ、でも半世紀じゃきかないよ。」
「・・んだよ、図々しいヤツだな。」
「せめて、半世紀+四半世紀にしといて?」
「幾つまで生きる気だテメー・・」
「ん?90歳のあっくんもさ、きっと今と頭の色あんま変わんないんだろうね〜。」
「オリャ、ジジィか・・」
「ふふ、その頃になったら、あっくんちょっとは縮んで、オレと同じくらいかな〜?」
「そこまでチビにはならねー。」
「あ、ヒド・・!!」
たわいもない言葉の掛け合い。
亜久津は千石の首に吐息がかかるような顔の位置を保ち、千石はそんな亜久津の銀髪に頬を埋めている。
どうせ、このまま放課後までこうなのだろうから、亜久津も髪が寝るのは黙認したようだった。
いつからか、千石のカバンにはハードワックスが常備されるようになっていたし。
「でもさ〜・・一緒にはいたいんだよね〜、正直。」
「テメーがンなコト言うたぁ、本当の世紀末はこれからか?」
「ん〜・・西暦にはナンチャッテ閏年ないからねぇ、3000年までは世紀末来ないよ〜?」
「知るか。」
「あ、でもノストラダムスの予言ってさぁ、太陽暦と太陰暦の違いでズレてたとか言ってたなぁ・・」
「テレビに踊らされてんじゃねぇよ。」
「ん〜?まぁ、可能性のひとつってコトで。真実はいつもひとつナンでしょ〜?」
「探偵に興味はない。」
「あ、でも見てんだ〜。オレ、部活出たら見れないんだよね〜。」
「オレじゃねー。優紀だ。」
「優紀ちゃん?へ〜、優紀ちゃんアニメなんか見るんだ〜。」
「・・職場で恒例チャンネルなんだとよ。」
「あ〜、大人も好きだもんね〜。長くても前後編だし、後編でプレビュー流れるし。サザエさんと同類?」
「同類じゃねーだろー・・。」
「あ、サザエさんは一話完結?ま、日本の食卓のお供ってコトで。」
「実感ねー。」
サワサワと、千石の指が伸びて、亜久津の銀髪を柔らかくほどけだした辺りから梳きはじめる。
最初は後ろ髪。
耳の辺りはもとから固めていないし、痛くないように、と気遣いながらサイドの細い髪を梳るのは楽しい。
「そういえばさぁ、」
「ンだよ・・」
亜久津は、どうも千石に髪を梳かれると睡魔に襲われるらしい。
今まで頭を撫でられるような距離に他人を許したことがないからか、単に亜久津の背が伸びすぎてしまったからかは知らないが、とにかく、亜久津に触ることが心地
良い千石にしてみれば嬉しいばかりであるが。
「優紀ちゃんっていえば、こないだのブーケとか、ど〜なったの〜?」
いい加減膝立ちもシンドイので、千石が亜久津の足の上に腰を降ろす。
もともと小柄、と言われる千石だから、亜久津は眉をしかめただけで、文句は言わなかった。
「別に。バイト代だけもらって後はバックレた。」
テメーだって知ってんだろーがよ。
亜久津が、呆れたように言って、フッと視線を落とした。
ホテルのラウンジで情けない顔でケーキをヤケ食い・・というには慎ましやかな量だったが、をしていた南と清算したカードを回収して。
恨めし気ながらも、南が物珍しげに亜久津のスーツ姿を見ているのを尻目に、エントランスを出たところで亜久津は千石に攫われた。
・・その後は、嫌味なく着飾った亜久津を、千石は面白がってゲーセンやマクドナルド、映画館にスクランブル交差点、果ては遠出して、夜景の綺麗だという観覧車
のあるアミューズメント施設まで連れ回してご満悦だった。
流石に、履き慣れないローファーに亜久津の踵が悲鳴を上げ、デートと他人から見れば充分にそうだったと言える千石の笑顔のワガママは幕を閉じた。
「・・ったく、無駄に目立つとこばっか行きやがって・・」
それでも、亜久津には電車賃すら出させなかったのだから、完璧なエスコートと言えば、言えなくもなかった、と世の人は言うかもしれない。
当の亜久津に言わせれば迷惑賃だそうだが。
「うん?ん〜、やっぱ、格好イイあっくん、自慢したいじゃん?あっくんってさ、隠しときたいくらい大事なんだけど、隠しても無駄っていうの?
・・そんなカンジ。」
あはは、と千石がいつもの笑いを見せた。
「どんなだ・・」
「あ、ちょっと呆れてるでしょ〜?でもさ、あっくんて、ホラ、優紀ちゃんが広告塔に使ったみたいにさ、目立つんだよ。髪、銀じゃなくっても。降ろしてても、さ。
ホント。」
あらかた梳いてしまい、亜久津の長い前髪がサラリと瞳にかかるのを楽しそうに見て、千石はぎゅぅぅ、と腕の中の亜久津を抱きしめる。
「あぁん?ンなの、テメーもイイ勝負だろーが。この悪目立ちオレンジ頭が。」
イテーな、この馬鹿力、と亜久津が毒づいた。
・・伊達に虎砲を繰り出す腕力はしていないらしい。
ついでとばかりに胴を締め上げられ、千石が「あっくん〜、リベンジ〜?」と締まってる締まってる〜!!と騒ぎながらも楽しそうに口を開く。
「あはは、確かに、メチャクチャ目立ってたもんね〜、特に交差点と観覧車。」
「…テメーがヒト引きずりながら50m直線ダッシュかけたり、大声でアホなコト喚きながらあんなモンに男二人で乗ったりしなきゃな・・」
遠い目をして亜久津。
思い出したくはないが、この男が横にいると、些細なコトさえインパクトのある出来事であるように記憶され、容易に忘れることもままならないのが腹立たしい。
「え〜?でも、あっくん恥ずかしがり屋さんだから、ちゃんとスクランブル交差点お約束の雑踏でちゅ〜vvも、観覧車のてっぺんでのちゅ〜vvもしなかったじゃ
ん?」
「・・そりゃぁ、どうも。」
褒めて、褒めて、といわんばかりの千石の口調に、亜久津は深く溜息。
「ま、その分、映画館で堪能させて頂きましたが♪」
「・・懲りてねーな・・テメー・・」
「うん?あっくんにちゅぅすんのにイチイチ、メゲてたら身が持ちません〜!!いつでも臨戦態勢・チャンスは逃すな!!ってね?」
「色ボケが・・」
「いやぁ、それほどでも・・vv」
「そこで頬染めんな。ウザイ。」
スパッと切って捨てて、亜久津が忍笑い。
あまりに微かすぎて普通なら聞き逃すようなそれも、千石の首にかかる吐息は漏らさず届けてくれる。
「で〜もさ?アレ、惜しかったよね〜。」
「?・・んだ?ゲーセンの人形か?」
「ん〜ん、アレはい〜の!だって持ってたらあっくんと手ぇ繋げないじゃん?」
「繋がんでいい。むしろ繋ぐな。懐くな。」
「うわ、この体勢でソレ言いマス!?・・ま〜、い〜けど?」
「二言はないな。よし、二度と懐くな。」
同時に亜久津の抱き込まれていた頭がどこうとする。
と。
弾かれたように、千石の腕が。
痛いほどに、それを阻止した。
「だ、ダメっ!!あっくん、あっくん、それはダメ!!」
あまりの必死な声に、亜久津がポカン、とした顔をしたが、生憎千石には見えない。
何をそんなに必死に、とは思うが、押しつけられた胸元がドクドク言っているのを聞いてしまえば、無碍に蹴倒すのも憚られる。
「・・ンだよ?マジでオカシーんか?オマエ・・」
ぎゅうぎゅう、先程まではまだ手加減してたのか!?という力で引き寄せられ、亜久津が抵抗する訳でなく、ちょっと離せや、と合図する。
逃げない?触っててもいい?とガキ臭い声で聞かれ、「あー・・」と曖昧な返事をすると、じゃぁヤダ、とダダこねだ。
「わーったから。・・オラ、」
「ん〜・・」
逃げねーよ、と亜久津が片腕で千石の首根っこを引っ掴むようにして、ようやく離れる。
酸素を吸い込み、ったく、と言ちれば、へへ、と照れくさそうに笑った千石の顔に、ウサンクセーと溜息が出た。
「・・オイ」
「なに〜?あっくん?」
「来いよ。」
ギシッと音を立てる鉄柵にもたれ、腕を伸ばす。
すると、ヒトの膝に図々しくも乗っかっていた千石が、一瞬キョトンとした顔をした。
何も言わず、そのままで居たら。
「・・あ〜っくん、ホント、オトコマエ〜・・」
ほにゃぁ・・と破顔した千石が、オモチャにしがみつくガキみたいな顔で抱きついてきた。
「何度も言うんじゃねー。」
「ん〜・・でも、言っても言っても足んないくらい、あっくんイカしてる〜・・」
「すでにその言葉がイケてねー。」
「ありゃ?メンゴ・メンゴ☆」
スリスリスリスリ・・
日向の猫みたいな、そのくせやたらと体温の低い体がまとわりつく。
いつもなら、平然とした顔で背中に腕を回すクセに、今日は大人しくヒトのガクランの前を掴んで、顔すらうつむけたまま、こちらを見ない。
起きた時とはてんで逆の体勢になったにも関わらず、違和感がないのが不思議な限り。
「・・で?何が惜しいって?」
体の両脇に降ろしていた腕を、そういや・・やっぱ煙草が吸えねぇなぁ、と思ったきり、とりあえず目の前の人間のオレンジ頭に乗せておく。
コイツも整髪料が取れかけてんのか、外ハネが少し大人しい。
「あぁ、ん〜と、あっくんとの海外挙式〜。」
今度は千石が眠たくなったのか、ウトウトとした声だった。
「・・あぁん?」
「せっかくタイムアップ直前だったのに、あっくんの魅惑のちゅ〜に気を取られて、コトも有ろうに花嫁さん手ずから式・剥奪されちゃいました〜・・」
あ〜あ、ホント残念。
「・・アホだろう、オマエ・・」
「え〜?オレ、馬鹿じゃないんじゃなかったっけ〜?ま、いいや。馬鹿は辛辣、アホは愛嬌。大阪のヒトって面白いよね〜。忍足くんとか〜。」
「それはなにか、アホには手心が入ってるってか?」
「ん〜?どうかなぁ、あっくんに言われちゃうと、どっちもグサッと・・。」
「アホ・アホ・アホ・バーカ。バーカ。」
「うわぁ・・えげつないコンボ・・。キヨたん傷心!!」
「そうか、そりゃよかった。俺様が抱きしめてやってんのに傷がついたと?ほー・・」
「うわ、ウソ・ウソ!!キヨたん、幸せ絶頂vvこの世の春!!あっくん、だ〜い好きvv」
ね、ね。
だからさぁ、
千石が、こちらを見ないままに、小さく呟いた。
「あっくん、オレんトコ、お嫁さんに来ない〜?」
聞き取れないほど、風に紛れるほど、微かに。
・・その時の顔を。
イラついた顔で、オレンジの頭をグイッとコチラに向けた亜久津は、ぼんやりと思った。
あー・・また忘れらんねーモンが増えた、と。
「・・言ったろーが。オレはチビの嫁にはなんねー。」
つか、嫁って何よ?
「え〜?あっくん、今180ちょいくらい?」
「春、78。」
「んじゃ、やっぱそんくらいかぁ・・あと10cm・・牛乳飲んで〜、まぁ運動はしこたましてるからぁ・・あとはDNAの神秘?」
「突っ込みどころ満載だな。」
「そう言わないでよ〜。現代ッコの特権と、親の遺伝子配列+αの功労ってことで、後7cmは伸びそうなんだけどね〜。」
「ナンだ、その具体的な数値はよ・・」
「希望的観測含めて、なら180なんだけど。あっくんもまだ伸びちゃうよね〜?」
「まぁな。」
「うわ・・否定してクダさらない・・」
「キボーテキカンソク含めたら、2mかもな。」
亜久津が喉の奥で笑った。
「2mのあっくんかぁ・・惚れ直してばっかで大変そうだなぁ・・」
「何が」
「うん?オレのシンゾー。見るだけでバックンバックンしてて、もう、ちゅぅなんかしたら・・」
「おー、爆発でもしてくれんのか?」
「・・あっくん、オレをなんだと思ってるワケ?」
「・・さぁな?」
さしずめ、頼りない押し掛け婿候補ってヤツ?
また、亜久津は声に出さずに、微かに喉の奥で笑った。
ヘンな時間の流れのこの屋上は、有り得ないほど緩慢に思考の波を押し流していく。
いつもなら、思い浮かぶことすらないバカげた茶番劇のような言葉を交わし。
らしくなく、しょげた男は、神妙な顔をして、ヒトの膝の上に陣取っている。
ありえねー・・
亜久津が、千石の髪に頬をうずめた。
・・が。
「…ンだ?」
いきなり、フッフッフッ…と。
不気味としか言いようのない笑みを零しはじめた腕の中の人間に、ザワッと亜久津の神経が逆立った。
凄まじく、嫌な予感がする。
「やだなぁ〜、あっくん、そんな逃げ腰になんないでよ〜vv」
「なら、ンのヘンな面と笑いをナンとかしやがれ!!」
「え〜?ちょっとしばらくは無理そうvv」
「今すぐ止めろ。てか、ドケ。」
「やぁだvv・・さってと、あっくんがオレのフィアンセになってくれたみたいだから、ハイ、コレvv」
コレ・・?
と、亜久津が千石の頭を離し、出来うる限り上体をのけぞらせて見た先には。
「・・聞きたくねーが、聞いてやる。ソレはナンだ・・」
「え?何って…婚約指輪vv」
きゃっvvと頬を染めた千石に、亜久津は自分のカンが外れていなかったことを、ここまで後悔したことは無いだろうと言う視線を向ける。
「一様、こないだ露天で遊んだ時にサイズは教えてもらったけどさぁ、あっくんの趣味って結構難しいじゃん?でも、コレはイイカンジじゃない〜?」
確かに、千石が手にしている指輪は、このオレンジ頭という神経キレてそうなカラーリングを素で実行する男にしては洒落ていた。
恐るべき経済観念の持ち主である男のことだ。
安物ではないというのは、モノの良さはハハオヤの仕事上、目にすることもあり、馴染みのあるシルバーだけあって、亜久津にも見て取れた。
・・が、問題は決してそこではナイ。
「アホだろう。いや、アホだな。」
「やぁん、あっくん、愛あるオコトバvvでも、照れないでいいよ〜vvささ、左手を!!」
芝居がかった仕草で、手を伸べる千石に、左手は左手でも、握った鉄拳を食らわせる。
な・・何が悲しゅうて・・!!
「イテテテ・・もう、あっくんってば!!」
「うるせー。」
「あ、もしかしてデザイン気に入らない!?ううん、やっぱり一緒に選んだ方がよかったよねぇ・・そうだ、これからお店行く?
今日は部活もないし、あっくん、こないだのスーツ着てよ?そしたら、買った後、またデートしよ〜vv」
「黙れ。止まれ。暴走すんな。つーか、むしろ、いらねー。」
キッパリ亜久津が言うと、ガガーン!!とオーバーリアクションで千石が固まる。
劇画チックなその様子は、先程までしょげていた人間の面影は微塵もない。
「どどどど、どーしてっ!?あ、あっくん、オレ、あっくんの婿候補なんでしょ〜!?」
「候補。立候補しても当選するとは限んねーなぁ。」
ニヤリ、と亜久津。
「えぇぇっ!?・・って、ダイジョーブ!!オレ以外は立候補なんてしないモン!!」
「・・んでだよ。」
「へ?だって、オレ以外、誰があっくんに「婿」になるって言える訳?そんなん瞬殺っしょ?」
ケロリと反撃したのは千石。
あったりまえのコト言わないでよ〜、とカラカラ笑っている。
「・・俺が、か・・」
確かに、自分なら。
んな世迷い言、言う前に口を利けなくしてるだろう。
・・気付ば、だが。
いや、つーか、いるとは思えないが・・。
「うん?むしろオレが〜vv・・オレ以外であっくん口説こうなんて、銃殺刑vv」
笑顔で宣う千石に、亜久津、絶句。
コイツならやる・・!!
瞬時にそう悟ったのは、流石にその千石に日々アプローチを掛け続けられているだけあってのことだろうか。
「ふふ、どうせなら、共同作業にしちゃおうか〜?」
「遠慮こうむる。」
「あはは、あっくん知ってる?一人で持つには重すぎて、三人で持つには不安なもの。」
「知らねー。」
「・・きっと、この指輪の意味も、一緒だよ?」
そう言うと、亜久津の返事も聞かずに、千石は長い指に指輪を埋め込んでしまう。
キュキュ、と根本まで入れ、満足そうに、少しだけシルバーに指を這わせた。
「勝手してんじゃねー・・」
「うん?ん〜、でもイイっしょ?オレもお揃い〜vv」
言いながら、千石も自分の指に幾分細身のリングを填める。
亜久津には、填めてと・・ねだらなかった。
「ね?そっちの指なら目立たないし、ダメ?」
ただ、外さないでよ、と笑う。
「あー・・」
右の薬指に填められた指輪は、やっぱりそれだけ見ると、亜久津の好みを外してはいなかった。
華奢すぎず、かといって重すぎず、別に装飾品として亜久津が付けていても違和感のないデザイン。
・・ワガママ言いのクセに、やたらと気ぃ使いの男の、片鱗。
「オレもさぁ、やっぱラケット握るッショ?」
付けてたいけど、ずっとは無理っぽいから・・そう言って、千石は亜久津が刻んだ、あの表情を浮かべる。
そして、それを見てしまうと、亜久津はどうにも・・
「・・だかんな。」
ボソッと、何ゴトか呟いて、亜久津はパタリと腕をコンクリートの上に伏せた。
「・・ん。あっくん、アリガトー・・」
その上に、千石の手が重なる。
ついでに、またオレンジ色の頭が、ふわりと白いガクランの胸にもたれかかった。
そして、伝わる鼓動。
「・・ガラになくキンチョーなんかしてんじゃんーよ。」
亜久津が、今日オカシかった千石の理由を見た気がして、茶化すように言った。
そのくせ、その声がひどく穏やかなもんだから、千石は、やぁっぱあっくん格好いい〜と、笑う。
屋上は、とてもとても空が近くて遠くて。
流れる空気は、優しいようで、どこか泣きたくなるほど甘やかで。
重なった体温が、嘘みたいに離れ難く。
「・・オイ、さっきの答え、ナンだ?」
「ん〜?あぁ、アレね。あっくん、ワカンナイ?」
「・・だから聞いてんだろーが。」
「あはは、メンゴ・メンゴ☆」
「チッ…」
「拗ねないでよ〜、あっくんvv・・え〜とね。答えはねえ・・」
言ったでしょ?
「ヒミツ、だよ?」
二人で持つから、チョウドイイ、モノ。
ナイショ、ヒミツ、二人のヒメゴト。
もったいないから、誰にも教えてやんないよ!!
・・キミ以外には、だぁれにもvv
今は、右手の薬指。
いつか、ホンモノ、填めて上げるからね?
左手の、その指にさ。
END
素敵な500HITを下さったKari様から、BBSにて「あっくんに海外結婚阻止されて残念・・!!」とお言葉を頂いたので、
調子に乗って、ちょっぴり続編です。(笑)
素直に嫁にはなってくれないらしいあっくんに、千石さん、プロポーズ兼『エンゲージリング』プレゼント!!(爆)
すみません、すみません・・!!(土下座)
相変わらず、押しが足りない気のする千石さんですが、あっくんの方は、それがなんでか知ってるような気づきたくないような〜という微妙なトコロらしく。
結局、最後の最後では押し切られてあげてます。(笑)
チラッと書いた、あっくんと千石さんの夜デートも、いつか書けたら楽しそうですよね〜vv(それは、間違いなくオマエだけだ。)
やたらと目立つ二人組、夜の街で遊び回る!!
そ、それでは、どうぞ次回もお付き合いいただけますと、とってもとっても嬉しいですvv
・・よろしければ、こちらもKariさまにこっそりお捧げ・・・!!(いりません。こんな暴走・・)
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