大人しいヤツがいいなら
口をつぐんでやってもいい
綺麗なヤツがいいなら
オレの背中だけ、見てなよ
ね?
恋愛革命
「あ〜っくん、ね、ね、あっくんも一緒に作らない〜?」
シンクに食べ終わった皿を降ろして水を張って置いた後、おもむろに千石がそう言って振り返った。
「あぁ?テメーが作るってっただろーが。」
「うん。でも、そのままだとあっくんタバコ吸いたくなっちゃうデショ?」
「…」
「だからさ、オレ、クレープ焼くし。あっくん作ってくんなくてもいーから、横で注文つけてよ。あっくん好みのパフェ&クレープにするからさ〜♪」
にこにこにこにこ・・
「ね?」
・・クソッ。
なんだって、コイツはヒトの行動先読みすんだよ。
「・・作んねーかんな。」
そして、やっぱり千石には何故か言い返せない亜久津であった。
カシャカシャカシャ
「あ、あっくん、そのビン、3回くらい振ってくれる〜?」
泡立て器でボールの中の黄色い液体をかき混ぜながら、千石が声をかけてくる。
「あー・・」
何がなにやら、気が付くと亜久津は上機嫌な千石の隣で腕組みをして立っていた。
そして、作らねーとは宣言したものの、千石に「卵取って〜!」「フライパンもう一枚ある〜?」とアレコレ言われると、最後には諦めたのか、はぁぁぁ・・と溜息
をついて少しだけ手伝いにもならないようなコトをしている。
・・というのは、亜久津の言い分で、千石に言わせれば、しっかり一緒に作っているようなものだ。
よって、千石の機嫌はすこぶるよろしい。
「コレかよ・・」
新しいらしい茶色のビンの封を切って、亜久津が言われた通りにペペペ、と適当に入れる。
「うん。ありがと〜!」
「・・ふん。」
「えっとね〜、今からクレープ生地焼くからさ、同時進行でパフェも盛ろうね。」
「あっそ。・・どうせグラス取ってこいってんだろ・・」
こんなことなら、煙草吸ってりゃよかった・・と、心底思いながら、亜久津が言う。
すると、きょとん、とした後、千石がとても嬉しそうな顔をした。
「わ〜!!すごいな〜、あっくんオレの言いたいこと分かっちゃうんだ〜!!」
「・・テメーが分かりやしーんだろ・・」
「んん、これも愛の力かなぁ〜☆や〜。嬉しいな〜、照れちゃうな〜vv」
・・前言大撤回。
こいつは宇宙人だ。
いや、俺も宇宙人といえば宇宙人だが、地球人だ。
コイツはぜってーに、チガウ!!
「んじゃ、ついでにアイスも出してね〜!!」
自分はさっさと2枚のフライパンを器用に操って次々と薄い生地を焼き上げていきながら、冷凍庫に入ってる〜!!と催促され、渋々、でっかいアイスの塊を取って
くる。
「オラよ・・」
「ハイ、ご苦労様!!・・と、よっと。」
料理が出来ると言うだけあって、手際よく次々と焼き上がる薄い黄色の生地を、亜久津がマジマジと見ている。
よく破れもせず、というカンジの顔だ。
「OK、じゃ、手早くやってしまいましょ〜♪」
気が済んだのか、見ればボールの中にはまだ液体が残っているのに、千石はフライパンから手を離した。
いいのかよ、という亜久津のチラッと向けられた視線に、「いいんです〜☆」と上機嫌に言い放って、千石はグラスとアイスを引き寄せた。
「ま、こっちは入れるだけ、って言ってもいいくらい簡単なんだけどね。」
最初にグラスの底にチョコソースを網の目にかけて、その上にコーンフレークが落とされる。
パラパラとその音が落ち着くと、またチョコソース。
次に最初からそこに置きっぱなしになっていたミカンのシロップ漬けのカンヅメを開け、花形に一層敷くと、「あ、そうそう。」と、千石が冷蔵庫に向かった。
「?」
亜久津は、今度こそ自分の出番はねーな、と腕組み体勢でそれを見ている。
「ホントはね〜、ホイップしたらよかったんだけど、泡立て器あるかどうかわかんないから、こっち買ってきちゃったんだ〜。」
クレープ生地は菜箸でも混ぜれるからよかったんだけど、こっちは流石にシンドイもん、と千石はなにやらピンクの箱を手にして戻ってくる。
結局、阿久津家にはちゃんと泡立て器なるものが存在したのだが、備えあれば憂いなし。
あっくんの残念そうな顔なんか見たくないもんね〜、とは千石の心の内だ。
「・・んだよ、ソレ?」
「コレ?うん、コレは生クリームだよ〜。もうホイップしてあるヤツ。味は結構マトモだから、大丈夫だと思うよ。」
「ふ〜ん・・」
箱の中から、絞り袋に入った白いものが出てきて、亜久津はそんなもんもあんのか、と顎をしゃくった。
「あ〜っくん、バナナ、好き〜?」
もうすることねーだろー、と言い放って。
それでも、千石に一番近い、先程まで座っていたのとは真反対になる席に腰を降ろした亜久津は、手元に部屋から持ってきた雑誌を引き寄せたところで、声を掛けら
れた。
「嫌いじゃねー。」
振り返ることもせず、とりあえずページをめくると、こりゃ何時のだよ・・と言いたくなるような、すでに期間を過ぎたTV番組表が多くを占める情報誌だった。
「んん〜、じゃぁ、こんなカンジでオッケ♪あ、あっくん、こっち向いて〜!!」
一瞬にして興味も読む気も失せた雑誌。
それが悪かったのか、亜久津は「んだよ・・」と、迂闊にも何の気ナシに振り向いた。
「ハイ、あっくん、あ〜ん☆」
・・そして、そこには異星人。
もとい、異界人。
絶句した亜久津が、ポカン・・と口を開けたのを千石が見逃す筈がない。
指でその僅かな隙間をこじあけて、ポイ、と何かを放り込んで、至極満足そうに微笑んでいる。
「あっくん?もう、口閉じていいよ〜?」
そして、自分の指についたチョコレートソースをペロリと舐めて、クルリと後ろを向いてしまった。
・・その隙に、亜久津の顔がガァッと上気したのだが、本人は分かっていない。
「っっっっ…つ…………ッ〜!!!!!!」
口の中には、チョコバナナの味。
不覚・不覚・不覚・・!!
そんな言葉が、亜久津の頭の中を渦巻いたとか。
「あっくん、チョコ多め〜?あ、アーモンドいっぱい〜?」
が。
見事、亜久津の口をこじ開けた千石は飄々と、まだ制作中のグラスに向かっている。
「っ・・す、好きにしろっ!!」
テーブルにデコをぶつけた体勢で亜久津が投げやりに言う。
「うん。好きにする〜♪」
あっくんの口から『好き』って聞こえるの、いいよね〜。
なんて、千石が小さく呟いた。
「ハイ!!あ〜っくん、お待たせ☆キヨ特製スペシャル・チョコパで〜す!!」
ジャジャジャ〜ン、と効果音付きで目の前に置かれたグラス。
亜久津はめり込んだ額を剥がして、ノロノロと机の上に視線を上げる。
「!」
そして、一瞬驚いたように、閉じかけていた瞳を大きく見開いた。
「ど?け〜っこうキレーに仕上がったっショ〜?」
パッと、チョコレートパフェの後ろで『どうだ』、とばかりに掌を扇形に広げて誇らしげに笑う千石に、亜久津が素直に「スゲーな・・」という顔でグラスとその制
作者を交互に見ている。
「ささ、溶けちゃわないウチに、どーぞ、召し上がれ〜vv」
「あ・・あぁ。」
ついでに、とタイミング良く渡されたスプーンを片手に、亜久津がマジマジとパフェを検分。
アイス、バナナ、チョコレートソース…
どれを取っても、確かにチョコパ。
なんだが。
「・・ってーか、コレ、マジでオマエが作ったのか?」
チョイチョイ、とスプーンでどっから食うべきだろう・・、という迷いなのか。
亜久津がアイスをつつきながら聞いてくる。
「そーだよ〜。だって、今このウチにはあっくんとオレしかいないも〜ん。」
わかってる癖に、聞いちゃうのも可愛いなぁ、なんて思いながら、千石は手早く自分の分を盛りつけ、一端アイスを冷蔵庫へ仕舞いに行く。
そして、パタン、と冷気が流れ出す扉を閉めると、千石は先程まで亜久津が座っていた席へと、自分の分のグラスを持って移動した。
「・・?オマエの・・」
とりあえず、無難に上から、そしてグラスからはみ出ている部分から食べることにしたらしい亜久津は、合計5枚ある花弁のように広がっているアイスをスプーンも
使わず囓っていた。
グラスを手で持てばいいのに、顔の方を降ろして、ガジガジ食べているので、必然的に上目遣い。
「あはは、あっくん気に入ってくれた〜?・・うん、オレね〜、あんまり別腹って発生しないんだよね。でも、せっかくだから、ちょっとだけ、ね。」
甘いの、嫌いじゃないんだよ?と、笑って、千石はストローを突き刺してあるグラスを「見る?」と亜久津に差し出した。
「ゲ・・オマエってマジ・・」
器用だなー、とは口にしなかったが、亜久津の目にはしっかり浮かんでいる。
「へへ♪あっくん、一口味見する〜?チョコパじゃないけど。」
千石が自分の分で用意したのは、バニラアイスを薔薇の花に象ったものをグラスに沈め、そこにミルクティーの他に1缶だけ買ってきていたスプライトを注いだもの
だった。
構わないで食べていいよ?と千石が難しい顔でじーっとコチラを見ている亜久津に言うと、いらねーと答えようかどうか躊躇しているのが分かり、クスッと小さく笑
う。
途端に、プイッと横を向く亜久津。
「ね、ね、あっくん、この薔薇ってどうやって作んのか知ってる〜?」
「しらねー・・」
「うん。えっとね、おっきめのスプーンをお湯で暖めてさ、それでダイナミックにアイス掬うの。そしたら、ミカンの皮みたいな形に剥けるのね?それをさ、クルクル
って巻いて、それを何枚も重ねるとさ、こーゆーローズシェープになるの。」
バニラアイスだから、白薔薇だよね。
オレ等の制服とお揃い♪
そう言って、どこか無邪気に笑う千石に、亜久津が呆れたような視線を向ける。
「・・バーカ。んな、甘ったりー色、してねーって。」
「あ、そっか〜・・。んじゃ、あっくんとお揃い!!」
「…はぁ???」
「あっくん、色白いでしょ〜?でもさ、やっぱ白人サンとはチガウから、こーゆー優しい白色してるよね?」
あっくんも、舐めたら甘いのかな?
にこっと笑って、千石が爆弾発言。
当然、亜久津は、脳内まっしろ。
「あ、あっくん、溶けちゃう!!・・て、味見が先!?」
呆然としている亜久津に、千石がまたもや自分のペースで話を進めて、さっさとアイスをすくい上げると。
また、「あ〜っくん、あ〜ん!!」とか何とか言いながら、亜久津の口の中に放り込んだ。
・・ところが。
「ゲ・・ッホ!!」
「あ、ゴメン〜!!炭酸、咽せた!?」
「・・チガッ・・ちょっ・・気管・・」
ケホケホやってる亜久津に、千石がピーンとくる。
「・・あっくん、もしかして、炭酸苦手…???」
それで、コーラもファンタもジンジャーエールもいらないっていったの?
・・一番無難な、スプライト買ってきちゃったんだけど・・。
と、いう暢気な千石の脳内独白はいいとして。
目の前の亜久津の顔が、咳き込んだだけにしては赤過ぎる気がするので、多分正解だろう。
こんな、酒も煙草もオールオッケー。
屋上で見た第一印象通りの内臓不健康そうな生活振りを、冷蔵庫の中身からも確信してしまった千石ではあったが。
・・同時に、実に自分の想い人が、可愛い人間だと分かって、天井知らずのご機嫌・ハイテンション振りである。
「ごめんね?あっくん。苦手だって知ってたら、無理させたくなかったんだけど・・。」
もちろん、この見るからにプライドの高い亜久津を笑うなんて、そんな真似を千石がする筈もなく。
千石としても、亜久津にとっては『炭酸がダメ』なんて、結構なトップシークレットだったコトを知っても、ただただ可愛いばかりで。
そして、浮かぶのはちょっとばかりの反省。
・・ホント、あっくんて可愛い〜vv
「・・も、いー。」
バレても笑い飛ばさない千石に、言い繕うのもヘンだと思ったのか。
亜久津も、微かに咳で涙目になりつつも、強くは出られない。
「うん。ゴメンネ?あっくん。」
だから。
仲直りのシルシ〜♪と言って、千石が伸ばした指先で、亜久津の目元に触れても。
・・今回ばかりは、鉄拳も、脚払いも、背負い投げも、飛んでは来なかったのだった。
急がないと、溶けちゃうよ。
甘い、甘い、この気持ち。
さぁ、次は何が出てくるの?
キミは、ボクのおもちゃ箱。
END
千石くん、大暴走パート・・(いくつでしたっけ???)
あっくん、今回だけで何回、不覚を覚えたんでしょうね〜?(笑)
口にバナナ突っ込まれ、アイス突っ込まれ、そんで弱点露見してます。
炭酸が飲めない、という可愛らしい癖は、3次元からのネタで。
・・じゃぁ、きっとファミレスのドリンクバーはオレンジジュースか爽健美茶・・(爆)
いや〜。
そんなあっくんも、千石くんは大好きなんでしょうね。(^^)
次回、新たな展開か!?
あっくん、またも千石君に襲撃され・・!?(誤)
また、おつき合い頂けますとすっごっく嬉しいです〜vv
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