おままごとみたいな恋だと思った

でも

このドキドキは

遊びじゃ無理

それは

よくよく知ってるんだ

 

 

火傷しそうな恋ノ歌

 

 

「うわ〜、キレーにしてんだね〜!!」

 

 亜久津に案内されたのは、山吹から歩いて15分くらいの所にあるマンションだった。

 入り口にはちゃんとセキュリティがついてて、手慣れた操作で亜久津はそれを解除した。  

 それから、物珍しそうにキョロキョロしている千石をチラリと見遣り、気怠そうにスーパーの袋を持ってない方の手で、奥のエレベーターの上昇ボタンを押した。

「あんま、見てんじゃねーよ。」

 通された部屋は、何室あるのかは分からないが、割合にゆったりした空間に思えた。

 玄関には、たった今、亜久津が脱いだ以外にはスニーカーが2足。

 キチンと揃えられているのは、どうやら彼の家族の仕業らしい。

 亜久津は当然のごとく靴の向きなど気にせず部屋へと入っていく。

「あっくん、キッチン向こう?」

 ガサガサと、ビニール袋を持ってその背中を追うと、勝手に行けや、と部屋の奥、廊下の先の明るい方を指された。

「あ、じゃぁ。あっくん、そっちも貸して?」

「・・オラ。」

「ハイハイ♪あっくん、着替えてくる?キッチン勝手していい?」

「・・ん。」

 軽くはない袋を手渡して。

 亜久津は「あ〜・・」とか言いながら、先程自分が指さした方向へと進んでいく。

 どうやら、随分と奥行きのある部屋らしい。

 亜久津のプライベートルームは、その先だろう。

 

「出来たら呼ぼうか?あ、でも、居てくれると嬉しいけど・・」

 流石に、柄でもないが初めてお邪魔した、『気になるコ』の部屋だからだろうか。

 千石はやっぱり亜久津の後ろにくっついてキッチンまでたどり着くと。

 そこにあったテーブルに袋を乗せて、そのまま行き過ぎようとする亜久津の背中に声を掛けた。

「あぁ?・・んでだよ。」

 こんな二人しか居ない空間では無視も出来ず、亜久津が億劫そうに振り返る。

「ん〜・・オレが寂しいから。」

「却下。」

「・・ってのもあるけど、ちょっと使い勝手わかんないかもしれないから。

 塩どこ〜?とかイチイチあっくんの部屋まで聞きに行ってたら、パスタが吹きこぼれそう。」

 最初は神妙に、次にケロリと言い放つと、亜久津が呆れたような顔をする。

 どうしたら、こうスラスラともっともらしいことが言えるのか、というカンジだ。

「んなの、適当に漁れよ。俺だってしらねー。」

「え〜?でもお皿とかは分かるでしょ〜?流石に。」

「皿・・」

「そーそー。ちょっと位分かるじゃん?それに、これからもここ住むんでしょ?覚えなよ。オレも覚えるし。」

「はぁ?んでテメーが・・」

「ま、いいから、いいから。そーゆーワケで、あっくん着替えたらキッチン集合♪そだ、出来るまで居てくれたら、チョコパにクレープも付けてアゲル☆」

「・・わーったよ。」

 甘いモノですんなり釣れるあたり、山吹の誇る悪名高き不良も形無しだが。

 何故か、亜久津も千石もあまり気にしていないように、とりあえず双方の作業に取りかかることになった。

 

 

 

「・・ふぅ」

 まったく、なんだってこんなコトになったんだ、と。

 自分の部屋に入って、制服の襟元を緩めた途端に溜息のようなものが零れた。

 ベッドの上には、適当に着替えるつもりだったジーンズとシャツが無造作に放りだしてあるので、それを着ることにして。

 そういえば、今日はカーテンも開けてなかったな、とグレーの窓辺を見て、また溜息。

 

 ・・どうも調子が狂う。

 

「わけわかんねー・・」

 脱いだ白ランは、これはウルサイ奴がいるので、クローゼットのハンガーにかけ、ブラックジーンズに脚を通す。

 心なしか、また背が伸びたのか・・短い気がした。

 既製品が体に合わないのは、こういう時、すこぶる不便である。

 

 着替えてしまえば、特にすることもなく。

 いつもならばコンポをつけて音楽を垂れ流しにしながら、雑誌にでも目を通すのだが。

 今日ばかりはキッチンにいる異星人もどきに呼ばれているので、ベッドに寝転がるワケにもいかず、亜久津の機嫌はにわかに下降する。

 ここ数日マトモなモノを食っていなかったのが悪かった。

 トボケた男の妙な提案の、ギブアンドテイクのテイクの部分にまんまと乗っかった自分がアレといえばアレなのだろうが、胡散臭そうとは言え、具体的にアレコレ作

れると上げられれば、そこそこ食えるのか、と了承してしまっても仕方ないだろう。

 ・・もう、本気の本気、切実に人間の食べられる食いモンを腹に収めたかった。

 コンビニでもファミレスでもあるだろうといえば、ある。

 が、それとはまた次元の違った話なのだ。

 サバイバル生活でもここまでヒドイものは食わないだろう、という食生活を強要された記憶が蘇りかけて、亜久津はブンブンと頭を振る。

 と。

 

 

 

 コンコン。

 

 

 

「あっくん〜?お着替え終わった〜?」

 最初の強引さはどこにいったのか、大人しく部屋の外から声をかけてくる男に、亜久津は「あぁ」と短く返す。

「開けてもいい?」

「?・・別に・・」

「じゃ。」

 カチャ。

 ノブが回り、どっから引っぱり出したのか、レモンイエローのエプロンを装着済みの男が、神妙な顔をしてドアの間から顔を出した。

「わ〜・・あっくん、部屋も綺麗なんだね〜。」

 そして、キョロキョロと中を見渡したと思ったら、かなり感心したという顔でそんなことを言った。

「モノがねーだけだろ。」

 あるのは、ベッドにオーディオ、ラックとその上のテレビ。

 読んだか、どうだったか妖しい雑誌がその横に数冊積んであり、壁にはポスターの1枚も貼っていない。

 かなり、シンプルかつ殺風景な部屋。

 色味といえば、わずかに覗くピロケースのブルーグレーくらいだろう。

「そう?でも、あっくんの部屋がごちゃごちゃしてるってイメージはなかったかもしれないな〜。」

 ある意味、予想通りかも。

 クスリ、と千石が笑うと、馬鹿にされたと思ったのか、何なのか。

 亜久津がフン、と顔を逸らした。

 

「・・そうそう。でさ、パスタ茹でよ〜って思ったんだけど、おっきい鍋ってある?」

 一様シンク回りは探索してみたんだけど、と千石。

「ナベ?あ〜・・」

 よく考えてみれば、核家族満開の家庭環境なので、デカイ鍋はないかもしれない。

 しかも、たいがいが各自で食べるのを旨としているため、鍋、フライパン、それぞれ1種類あれば事足りる。

「ない?そりゃぁ、困ったなぁ〜・・。ま、普通のでもイけるけどさ〜。」

「テキトーに漁れ。出てくるかもしんねー。」

 保証はできないが、そうとしか言えない。

 亜久津にとってキッチンというスペースは、何週間か周期で、思い出すのも苦痛な空間になる。

 今日も思わずキッチンを通るときに眉根が寄ったのを自覚していた。

「?うん。わかった、そうする。でさ、あっくん着替え終わったんなら、一緒に行こ?」

 突然苦い顔になった亜久津を不思議そうに見つめて、千石は、ね?と笑った。

 

 すると、それに毒気を抜かれたのか、亜久津はふぅ、と息をついた後。

 床に置かれた雑誌の1冊取り上げて、ゲシと千石を部屋から蹴り出してから、自分も廊下へと出たのだった。

 

 ・・マジで調子狂うゼ・・ったく。

 

 

 

 

 

「あっくん、ワイングラスとかある〜?」

 パスタは8分〜♪とかなんとか。

 意外にももげずに鼻歌を歌う男が聞いた。

「あ?・・そのへんにあんじゃねー。」

 ガラスのコップが納められている棚を指さすと、千石が「手ぇ離せないから、あっくんお願い!!」と振り返る。

「んで、オレが・・」

「パスタ吹きこぼれてアルデンテ失敗していい?」

 にっこりと微笑まれて、亜久津に拒否権がなくなる。

「ちっ・・」

 ガタリ、とキッチンテーブルから離れ、やはり嫌な記憶の蘇る棚を漁る。

 何の変哲もないガラスコップが並ぶ中から、奥の方に仕舞われていたグラスを引っぱり出した。

「オラ、どれだよ。」

「ん〜・・あ、そっちの長い方。2つね。」

「2つ・・」

「そ。だってアイス、ファミリーパック買っちゃったもん。あっくん変質するまでに食べきれる?」

「・・わかった。」

 いくらなんでもそれは無理だろうと判断して、亜久津はシンクにグラスを2つ降ろした。

 そういえば、飲むんじゃなく、パフェ用なのか、とそんなことを改めて気づく。

 そこで、悪夢の周期間中に、この家にあったアルコールは壊滅的な被害にあったことを思い出し、亜久津がハッと目を見開いた。

 

「おい、あったのか?」

「え?なにが?鍋?」

「ちげーよ。酒。」

「???あ、赤玉ワインのこと?そういえば、ソース作るから出しとこうと思ったんだけど、見あたらなくて。」

「・・どけ。」

 

 菜箸片手に、あっくん?と声が聞こえるが、無視。

 亜久津は千石を2歩横にどけて、コンロの下の扉を漁りだした。

 

「…」

 記憶では、確かここにあったはずだ。

 そう思いながら、亜久津はガチャガチャと詰め込まれた瓶の群をかき分ける。

 そのどれもが未開封なのだが、賞味期限は恐ろしいので確認する気には到底なれない。

 まぁ、食うつもりもないので、構わないと言えば構わなかったが。

 

「あった?あっくん。」

 クルクルと腕を伸ばしてパスタをかき混ぜながら、千石が心持ち視線を下げる。

 屈み込んで、扉の中に頭を突っ込んでいる亜久津は何というか・・とても可愛いのだが、ここでヘタに怒らせると大変なことになるのは目に見えているので、しょう

がないなぁ、と少し残念だけど大人しくしていることにする。

「・・オラよ。」

 披露する語彙が少ない亜久津が、ズイッと差し出したビン。

 そこには、きちんと赤と黄色で彩られたラベルが貼られていた。

「ワイ♪サンキューね、あっくん。」

 受け取って、コンロから少し遠くに置く。

 ちょい、と視線を降ろすと、床に指先をついて亜久津が起きあがるトコだった。

 

 

 

 

 あ。

 

 

 

 

「・・テメッ!!」

 

 うちゅ、と。

 小さな音がして、あの屋上の時のように、千石の唇が亜久津に触れた。

 ・・ただし、オデコに。

 

 目を閉じる暇さえなくて、亜久津は呆然と千石の熱を残した唇がゆっくりと微笑むのを呆然と見送る。

 

「ねぇ、あっくんってキレーな髪の色してるよね。自分で色出してんの?」

 今にも殴りかかりそうな亜久津の拳の震えを、気にしないのか、たとえ向かってきてもかわす余裕があると思っているのか。

 千石はにこ〜っと笑って、全然違う話をし出した。

 そして、ついでとばかりにパスタを1本つまみあげて、亜久津の口元へ持っていく。

「オレはこんくらいでいいと思うんだけど、あっくんどう〜?」

 早くしないと落ちちゃうよ?と言われ、亜久津はグルグルする頭に翻弄されて、無意識にカパッと口を開けた。

 

 あ、犬歯、カワイ〜vv

 

「・・別に、これでいー。」

 と、まぁ。

 すっかり煙に巻かれてしまったのだが。

 こうなってしまうと、もう亜久津はハテ、なんで顔が熱いんだ?という根本的な問題に取り憑かれて、すっかり怒りが削がれてしまっていた。

 

 

 

 いつの間にかフライパンで野菜を炒め、赤ワインとケチャップと、なんやらかんやら、亜久津には分からないが調合というには、かなりおおざっぱに見える手つきで

千石がソースを作り上げた。

「あっくん、大きめの深いお皿ってある〜?」

 パスタもザッと湯を切り、手早くオリーブオイルを一かけした後、亜久津が適当に探し出した皿を洗って、そこに盛る。

 甘辛いような匂いのする赤味がかったソースが注がれ、亜久津は千石に「はい、あっくん席着いて〜!!」と言われ、とりあえず、なんとなく定位置になっている椅

子を引いた。

「紅茶はおやつの時に飲もうね。えっと、コレ、大丈夫かな〜?」

 コトン、と目の前に皿を置かれ、亜久津が渡されたフォークを大人しく受け取る。

 流石にこれは自力で探し当てたらしい。

「水じゃねーの?」

「レモン水だよ〜。麦茶とかあるかな〜って冷蔵庫開けたんだけど、ビールとミネラルウォーターしかなかったんだもん!!」

 あっくん、ホントどうやって生活してんの?と、千石。

 あまりにも侘びしいその様子に、ただの水ではなんだ、と、1つだけ買っておいたレモンをスライスして使ったが・・。

「あ、そ。」

 別に、と亜久津が言うなり、さっさと食べようとする。

 水だろうがレモンだろうが、大して気にしない、という態度に、千石がクスッと笑ったが。

 

 次の瞬間、千石の手が伸び、亜久津のフォークを持った手を捕らえた。

 

 

「あっくん!!『イタダキマス』、は?」

 

 

 至極、真面目な顔でそう言われ、亜久津は瞬間ポカンとする。

「はぁ・・?」

「はぁ?じゃないの〜!ハイ、食べる前にはイタダキマス〜!!」

「・・やってられるか。」

 ごく当然な顔でげんなり、という意思表示をする亜久津。

 いや、山吹に通う人間ならば誰しも、亜久津にそんなことは要求しないだろう。

 例え、背に腹は代えられない事情があって、やむを得ず、そんなとんでもないことになっても、亜久津に一蹴されれば、そこで事態は収まる。

 しかし。

 

「もう、あっくんたら照れ屋さんなんだもんな〜。じゃぁ、いいや。手だけ合わそ?ね?それならいーデショ?」

 握った手を離さないまま、に〜っこりと言い放ち。

 千石は「ハイ、いただきます〜♪」と、亜久津の手を合わせてしまった。

 

「テメー・・」

「なに?あっくん、冷めちゃよ?」

 暖簾に腕押し、糠に釘。

 あぁ、忘れてた・・いや、忘れていたかったが、こいつは異世界生息物だった・・。

 亜久津は深く深く、そう思い知ったらしい。

 

「……………………勝手すんな。」

 

 それだけ言うと、自分の手を取り返した亜久津は、黙々とスパゲッティ攻略に取りかかったのだった。

 

 

 

 

 

 

「ゴチソーサマデシタ〜♪」

 カラン、とフォークを置いて、千石がパチリと手を合わせる。

 食後の挨拶も促されるかと内心、嫌になっていた亜久津だったが、千石は何も言ってこなかった。

「あっくん、美味しかった?」

 代わりに、ちょっと首を傾げるようにしてそんな風に聞いてくる物だから、調子が崩れる。

「・・まーまー。」

 だからだろうか。

 比較的素直に、亜久津は感想を述べ。

 ・・イチイチ聞くんじゃねぇよ。

 全部食ったじゃねぇか、と、カシリと頬を掻いて見せたのだった。

 

「よかったぁ。じゃぁ、あっくん、チョコパ作るね〜☆」

 

 そして。

 それを見た千石が、亜久津が見ても『心底嬉しそうな顔』だと思ってしまいそうなほどに満面の笑みを浮かべ。

 いそいそと皿を持ってシンクに向かったのに、柄でもねーこと言ったか・・と、亜久津はちょっと己を振り返ったとか。

 

 

「・・さっさとしろよ。」

 

 

 レモン水は、冷たくて、少し馴染みがなくて。

 目の前の男に、どこか似ているような、そんな気が、ほんの、ほんの少しだけ。

 

 チッ。

 マジで柄でもねー・・。

 

 

 

 

 ねぇ。

 このままじゃ、このままじゃ。

 ドキドキが、止まらなくなるよ・・???

 

 

END


千石清純、二度目の襲撃大成功。(笑)

「?」(んだよ・・)と、思わず下から見上げられちゃって、プチン、と何かが切れちゃったらしいです。

若いです。青春です。

あっくん、ピンチです。(笑)

まぁ、何はともあれ・・・とりあえず、餌付け成功☆の模様。

次は念願(?)のチョコパですが、あっくん、多分今回以上に危険です。(笑)

何が?

・・・・・・背後とか???(爆)

頑張れ、あっくん!!(><)

どうぞ、次回もおつき合い頂けますと、すっごくすっごく嬉しいですvv

 

 

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