きっと

柑橘系の香りだろうと思った

あの、甘そうな髪の色と、天使の輪

 

 

 

ラブ☆タイフーン

 

 

 

 

「ミサちゃんに、マリコさんに。う〜ん、こっちは名無しのゴンベさんか〜♪」

 奥ゆかしくって可愛いねぇ。

 南あたりが知ったら、男子校の下駄箱まで進入してくる女子中・高生のどのへんがだ!?と苦言をこぼしそうな感想をもらして。

 千石清純は、女の子が見たら100年の恋も冷めるか、もしくは「そんな千石さんもステキvv」とハートマーク乱舞するような笑顔で・・

 サラリと死語使いっぷりを垣間見せておきながら、手にした手紙とプレゼントと思しき包みを眺めていた。

 

「いやいや、大した勇気と度胸と愛らしさだね〜。俺にも分けて欲しいよ。」

 

 本当に。

 どうやってか自分達の授業とガッコを抜けて来て。

 この比較的、正門に近いが、ばっちり入り口辺りには警備員のいる下足場まで監視の目をかいくぐって忍び込んできた腕前は感心に値する。

 まぁ、たいてい山吹に知り合いのいる女の子なら、こんな回りくどいことはせず、千石のスケジュールを聞き出して堂々と待ち伏せするか、その知り合いを介して

千石に何かしらを言付けるのが常だ。

 なにしろ、千石は無類の『女の子大好き人間』という認識が広く知れ渡っているのだから。

 

 

 ・・ただし。

 当の本人にとっては。

 ほんの少し前から、それは結構どうでもいいことになってしまったのだが。

 

 

 

「ん〜・・7,6,あ、」

 唸りながら、独り言みたいにカウントを取って、千石が簀の子を踏んで歩く。

 カタンカタンと音をたてるそれを、しかし気にした様子もなく、千石は授業中の静かなのをいいことに心おきなく探索を楽しんでいた。

「あ〜、あった!『亜久津』!!・・へ〜、こっちの字なんだ〜。」

 阿部、とかの阿、じゃなくって亜細亜の亜、ね。

 なんて、社会の授業の賜物を思い浮かべて、千石がクスクス笑う。

 

「3年5組、出席番号2番、亜久津くん。」

 

 残念、下の名前までは分からなかったな。

 そんな風に考えて、千石はクルリと踵を返した。

 ・・もちろん、教室に戻るつもりなどない。

 とりあえず、もう10分もすれば昼休みだ。

 

「じゃぁ、もう一仕事と行きますか♪」

 

 ウキウキとした足取り。

 千石は貰ったプレゼントをひょいと小脇に抱えた後は、見向きもしない。

 女の子の気持ちは嬉しいし。

 ちゃんと、自分がそれなりにしていれば女の子ウケがいいのを知っているのだが。

 

 千石清純、14歳。

 

 今日は家に帰っても、このラブレターを開封するかどうかも妖しい。

 どうも、普段のマメさをどっかに置き忘れてきたらしい、今現在・細かいことにはこだわらない男である。

 

(そうだなぁ〜)

 

 ・・本当に、さっきのさっきから、どうでもいいことになってしまった。

 昨日の千石が聞いたら、卒倒しそうな出来事である。

 が。

 そこは、それ。

 

 

 だって、どうやら。

 自分には。

 

 目下、気になって気になってしょうがない、『つれない想い人』が出来てしまったらしいのだから。

 

(う〜ん、とりあえずは・・)

 千石の思考は、その想い人にだけ、傾いていく。

 そして、それが。

 ひどく当たり前のように、千石をワクワクとさせた。

 

 

 

 

「みっなみチャ〜ン!!」

 

 キンコ〜ンと、お決まりのチャイムが鳴った後。

 3年1組の後ろのドアが勢い良く開かれた。

「はぁっ!?・・おい、千石、その呼び方は止めろ。」

「え〜!?せっかく可愛い名字なのに〜!!みなみチャンったら、もう!!」

「だれが、そんな鳥肌立つような名前だ!!」

「み・な・み・チャンvv」

「・・千石、寒い。」

「そう?」

 そして、間髪置かずに始まった漫才のごとき掛け合いに、1組の皆さんは「またか」という生暖かい眼差しを注ぐ。

 それも全く意に介さず、笑顔でにこにこと愛想を振りまく千石。

 ここに女の子でもいれば、「きゃ〜!!千石く〜ん!!」とでもなりそうなものだが、生憎、山吹は男子校であるからして。

 

「・・ったく、どうしたんだ?その様子じゃ、」

「ふふ、アタリ☆でも、みなみちゃん、」

 シ〜っと、唇に指を当てた千石に、言わなくてもバレバレだ、と南は心の中で盛大な溜息をつく。

 千石のサボリ癖は今に始まったことではないのだ。

「ハイハイ。で?」

「うん。みなみチャン、お昼はガッシンと?」

「・・アイツまで妙な名前で呼ばないでやってくれ・・」

 まるで氷帝の誰かさんを思い起こさせるような響きである。

「え〜?いいじゃん!だったら、みなみチャンとガッシンでトーナンコンビってのは?」

「・・人を犯罪者みたいな名前でひとまとめにしないでくれ。」

「どちっかって言うと、麻雀っぽいよね。うん。」

「・・千石、どっからか北と西を調達するとか言わないでくれよ。」

「あ、ウチのクラスに北原と、中西って居るよ?どう?カルテットとか。」

「却下。」

 どっと疲れた気がするのは、絶対に気のせいではない・・と、南はこれから昼食だというのに胃の辺りを押さえる。

 この、神経構造が並みの人間とはかけ離れた男の相手をしていると、本当にこっちの思考回路まで混乱してくるのだ。

「ま、それはいいとして。みなみチャン、オレと一緒にお昼食いましょう♪」

「は?あ、あぁ。別に構わないけど・・。」

 大抵は、隣のクラスの東方と食堂へ行くので、別に千石が混ざっても違和感はない。

「お前、弁当?」

「うんにゃ、今日は買い食いのヨテー。」

「ふぅん、じゃぁ、席取りに行くか。」

 気まぐれに現れては、こんな風に言い出すことも千石には珍しくないので、南は言いながら席を立つ。

 と。

「どうしたんだ?お前たち・・」

 ちょうど千石が立つ扉の向こうから、東方が不思議そうな顔でのぞき込んできた。

「あ、ナイスタイミング!!ガシちゃん、今日はお昼寄〜して?」

 

 ・・この時、東方は、言いようのない寒気に襲われたと、後に言う。 

 

 

 

 

 

 

「・・で、何が望みなんだ?」

 食堂に着くなり、『今日はご馳走したげる〜♪』と上機嫌な千石に、奢り奢られなんて柄でもないのだが、それぞれヨーグルトとカップアイスひとつずつを買って貰

い、東方と南は席に腰を落ち着けた。

 断ったら断ったで何かありそうで、とてもそんなことは言い出せない二人であった。

「うん?マサミちゃんたら、相変わらず聡いね〜。」

「まっ!?」

 あまりにあまりな呼ばれ方に、東方が食べていたうどんを吹きかけた。

 何事か、と思わず回りの生徒達も千石たちのいるテーブルを振り返っている。

 ちなみに、ここ山吹では、学生の定番メニューである安くて美味しいカレーが、彼等のやんどころない事情により、ジャージ姿のクラブ生か体育の後の生徒にしか人

気を博すことはない。

 恨むべきは、自分の行儀加減か、この白ランか。

「オレさ〜、最初、きっとマサヨシだと思ったんだよね。でも、マサミちゃんだって聞いて、思わずトキメキかけたもん。」

「・・トキメかないでくれ・・というか、どうやったらトキメけるんだ?」

「あはは、よく漫画であるじゃん?女の子が男のフリして男子校とかに通ってるっての。」

 でも、実際会ってみたら、みたで。

 東方は180cmを越えるオールバックをビシッと決めた、男子中学生だった。

「あぁ、オレの夢が〜・・」

「アホな妄想に入るなよ。で、ハナシ逸らしていいなら、そのままにするけど?」

 いい加減、小学校からの付き合いなので、南は千石の本当に話したいことこそ茶化して誤魔化したがる性格をある程度は認識している。

 まぁ、そんな南の理解の範疇に収まっていてくれるタマでもないとも思っているのだが。

「えへへ、さっすが、みなみチャン。」

「みなみチャンはカンベンしてくれ。・・それで?」

 言ってどうにかなるものなら、是非して頂きたいが、なかなかそうは行かないのを知っていながら言ってしまうのが人情なのか、などと考えながら、南は軽い気持ち

で聞いた。

 今までだって、3日に1度は、どこそこの学校のなにやら部のどうとかいう女子が可愛い、綺麗、食べちゃいたい、と頭がどうにかなりそうなハイテンション振り

で、相談と言う名の立派なノロケを聞かされていたからだ。

 

 

 

 

 

「・・えっと。どうしようもない位、めちゃ気になるコが出来たんデス。」

 

 

 

 

 

 

 

 少し、照れくさそうにした後。

 えへら、っと笑った千石に。

 揃ってD2コンビは顔を見合わせて、はあぁぁ・・と溜息を付いた。

「それは・・よかったな。」

「わざわざご報告有り難う。」

 またか、といったカンジの東方と南。

「あ〜!!信じてないでしょ!?ひっどいなぁ〜!!」

「おまえ、今までの所業を棚上げにしてソレ言うか?」

「真顔で言わないだけマシじゃないか?」

「うっわ、友達甲斐のないお言葉!!でも、安心して!!今回は、本気!!」

 何回聞いたんだよ、ソレも、と。

 とりあえず口にしようとしたセリフを、南も東方も「え?」という顔で、噛んだ。

 

 

 テーブルの肘を立て、絡めた指の上に顎を置いた千石が。

 ひどく嫣然と微笑んでいたから。

 

 

 千石清純という少年は、いつも笑顔でいるというイメージが強い。

 気の抜けたようなほにゃ〜っとした顔をしていて、およそ真面目、という評価からはほど遠い所にいるような。

 ・・ただ、調子のいいだけの少年なら、それはそれで平和だったろう。

 けれど、南と東方は薄々、目の前の少年が、どこか得体の知れない部分を人には晒さない器用さで飼い慣らしているとういうことを、あまり意識の働かない辺りで気

づき掛けていた。

 だからこそ、感情の躁鬱・・特に躁性の強く出ている千石には、呆れたような顔をしながらも、ムリに彼の意向を曲げるような発言は自然としない。

 また、千石は欝にいるときは、決してそれを見せるようなことはない。

 授業をサボタージュするのも、ひょっとするとそういう時なのかも知れないとどこかで思うからであろう、二人は千石の『癖』を容認し、時にはフォローしている。

 それが、この3人を親友という一くくりにしている、どこか曖昧なバランスを保っているようでもあった。

 

 

 

「え・・と、マジなのか?」

 ソレを見て、本気だと言った後に聞き直すのも、アレかと思ったが、確認したくなるのも仕方ないだろう。

「うん。」

「・・この間言ってた、どっかの女子校の子は?」

「目に入らない。」

「その椅子においてある荷物は?」

「あ、なんか下駄箱に入ってた。でも、興味ない。」

「・・大丈夫かよ?」

「ちゃんと断りは入れるよ。」

「そっか・・って、え〜と、その・・いろいろマジで?」

「ん。そのコ以外は、いい。」

 

 

 にっこり。

 

 

 テニスで1年生にしてレギュラー入りを果たした時ですら、こんな表情はしなかっただろう、という顔で。

 千石が、鮮やかに笑った。

 

 

 

 

「そ・・それで、どんなコなんだ?」

 これはどうも本気らしいと。

 ようやく信じたような顔をした南と東方は、それなら自分たちに話す位なのだから、何か用事があるのだろうと、無難な質問をしてみた。

 あまり他校に女の子の知り合いはいないが、南はともかく、東方は別の小学校出身なので、公立校ならば、千石のお目当ての子を知っているのかも知れない。

「ん?う〜ん、そうだな、目が印象的なコ、かな。」

「目が大きい、じゃなくてか?」

「大きいっていうのもアタリ。顔小作りなのに、目の占比率高い。」

 でも、なんていうか、力があるっていうの?

「ふぅん?じゃぁ、下からじっと見られたら可愛いんじゃないか?」

 珍しく話に乗ってきた東方にしてみても、大概の・・というか、ほぼモデルかスポーツ選手でもない限りは、女性に見下ろされることはないので。

 普段から小さい女の子に「あの、」なんて見上げられれば、そういう色っぽい話でないにしろ、やっぱり可愛いな、とは感じる。

「あ、ソレは思うなぁ。でも、立つと多分あっちのが背ぇ高いから、また座ってる時にやってもらおう。」

 嬉しそうに、アレは可愛かったなぁ、なんて言っている千石。

「え?なに?千石、もうその子と仲良いのか?」

 南が、何時の間に、という顔で聞く。

 ここ最近は大会前で、日が暮れてから大分経った頃に部活がお開きになっていたからだ。

 流石の千石も、あの練習の後ではナンパに行く体力は残っていないだろうと思ったのに。

「仲良くなりたいね、早く。」

「珍しい、まだなのか?」

「だって、知り合ったの30分前だもん。」

 ケロリ、と言い放った千石に、思わず、東方と南は、先程の『本気』発言をまた疑わしい目で見たくなった。

「・・ちなみに聞くけど、その子に逢うのに、」

 サボッたのか、と続く言葉が響く前に、千石が違うよ、と笑う。

 食堂には、教師陣もたまに顔を見せる。

 要領のいい千石は、未だに何かマズイことがバレたというようなことはないのだが。

「でも、それで側に寄れたんだから、ラッキーだと思うよ。」

 なにしろ、寝顔が可愛くて、と千石。

「・・すごい子だな、どこで寝てたんだ?」

「というか、ヘンなコトしてないだろうな?」

 どこまで千石がエスケープに行っていたのか知らないが、こんな昼間から堂々と惰眠を貪っていて、なおかつ側にはこのタラシで有名な千石がいたというのだから、

剛気な子である。

「ん。屋上。」

 サンドイッチにパクつきながら、千石がほやほやと幸せそうに言う。

「屋上?・・どこの。」

「もちろん、ウチの。」

「って、屋上閉鎖されてるだろ?」

「うんにゃ、鍵壊れてた。見事にバッキリ。」

「・・いや、その前に、どうやって入り込んだんだ?」

 伸びるうどんを前に、忙しなく南と東方も口に箸を運びながら目を合わせる。

 

 

「?そんな、入り込まなくっても、山吹の生徒サンだもん。」

 

 

 居て当たりまえッショ、と。

 千石は酷くあっけらかんと言いながら、最後のカツサンドを咀嚼した。

 

 

 

 

 

 

 ・・嵐の、始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ブッ…!!!」

 

 

 一呼吸置いて、千石周辺の人間が、勢い良く吹き出した。

 その様子から、学年で1・2を争う有名人の恋愛模様に皆、素知らぬ顔で聞き耳を立てていたのが、はからずとも発覚した形になる。

 もちろん、当の千石は知っていてやっているのか、知らずに爆弾を投下したのか、南と東方には判断付きかねる。

 なにせ、以前に千石がしたり顔で『恋は盲目』なんて歌いながら、実に楽しそうにしていたのを覚えていたからだ。

 曰く、『本気で気になる子』が出来たせいで、回りが見えなくなっているのか、見えている癖に、いつものように惚気てみたいお年頃なのだろうか。

「や・・山吹って、ウチか!?おい、正気か千石!!」

「ウチは男・・」

 そこまで言いかけて、東方は、頭を抱えてカタカタ震え出した。

 思い出してしまった自明の事実に、目の前がチカチカしている。

 その横では、たまに冗談半分で、そんなハナシも出ることはあったが、それこそ天地がひっくり返ろうが、天変地異が日常茶飯事になろうが、土星と火星がくっつこ

うが、絶対に等しく有り得ないと思っていた事態が・・まさか!?という葛藤が、脳内シナプスをフル活用して、コンマ3秒で繰り広げられている南の呼吸も止まりそ

うだ。

 もちろん、その他もろもろ、食堂の窓際一帯は、ブリザードのような精神寒波の後、冬の阿寒湖のごとき静けさと、オーロラすら見えそうな極地帯の極寒を一度に味

わえるような心地になっていた。

 

 

「とりあえず、すんごいジャジャ馬さんの照れ屋サンみたいだから、じっくり行った方がいいかな〜?って思ってるんだけど。・・みなみチャン、どう思う?」

 

 にこにこと、そんな平成氷河期も気にせず、千石が無意識にだろう、うどんを鉢の中でブチブチと細切れに切断しながら遠い所を見ている南に、声を掛ける。

「はは・・ジャジャ馬ね・・ジャジャ馬・・元気がよくてなによりじゃないか・・」

「そう?うん。でも、あの手と足の喧嘩っ早さは、これから躾なおした方がいいかな〜?」

「あぁ、そう・・躾・・」

「うん。せっかく、あんな綺麗な手ぇとか脚とかしてんのに、ケガしたらもったいないよね〜。よく、あれで顔が無傷だよ。ホント。」

 思わず東方がゲッソリしたような顔で、「・・キレイとか普通に言わないでくれ・・」と苦言を呈した。

「えぇっ!?でも、ガシちゃん、キレイはキレイだよ〜!!そうそう、もう骨格がピカ一にキレイでさぁ〜vv」

 何をか思い出したらしく、うっとりと、イメージとは裏腹に確かキリマンジャロとか言う最近のお気に入り紙コップ珈琲をブラックで飲みながら、苦そうな顔もせ

ず、千石は空中に指先で何か描いている。

 ・・あえて追求しないのは、まだ世界の裏側を見たくないからだろうか。

「あぁ・・そう・・よかったなぁ〜・・」

 いつからコイツは骨格フェチになったのか・・などとボンヤリと考えながら。

 そのうち、理科室のガイコツ標本・・通称『コッキ』クンにまでうっとりしだしたらどうしよう・・などと、南と東方の心労は続く。

「髪の毛も柔らかかったし〜!!あんなバリバリに固めちゃわないでもいいのにね。うん、今度クシャクシャにしちゃおう♪」

 オレとヤワラカ髪質似てるかもね〜。

 などと幸せ全開、頬まで心持ち染めて言っている千石は、確かにハタから見たら、普通に恋に浮かれた中学生。

 ・・ただし、そのお相手が、この男子校の中にいる、などと言わなければ、だ。

「それはやめとけ。髪、ちゃんとしてるヤツなら、キレるぞ・・」

 遠いところに意識を飛ばしておきながらも、東方が律儀に忠告してやる。

 彼の髪型は、いつでも見事なまでにオールバックに保たれている。

 雨の日でも乱れた一筋さえ見せたことがないのだから、朝からどれだけ丁寧にセットしているかは誰も知らない東方の秘密かもしれない。

「そっか〜!!ガシちゃん、ありがと!!でも、もうキレさせちゃったからな〜。怒った顔も可愛いから、癖になっちゃいそうで怖いよ。」

「キレ・・」

「あははは、ナンか武道でもしてたのかな?見事に投げられたよ。脚払いかけられてさ〜。」

 危うく屋上からはみ出るとこだった。

 などとカラリと笑う千石に。

 

「・・何したんだよ、お前・・」

 

 すでにふやけたうどんを流し込む気力もない南と東方は、疲れたように肩を落として、言ったのだが・・。

 

 千石の暴走はとどまる所を知らなかった。

 

「えへへ、あんまり隙だらけで可愛いから、ちゅ〜しちゃいました〜vv」

 

 

 

 

 ガン・・ガタガタ・・ガタンっ!!

 シーン……

 

 派手な音を響かせて二人が椅子から転げ落ちた後。

 千石の真後ろの席では、呆然とした顔で、手に持ったプラスチックコップからダバーっと水を零した生徒がいたり。

 せっかくジャージ姿だからとカレーのスプーンを口に突っ込んでいた陸上部の生徒が、向いの友人らしき人物の白ランに吹き出し。

 南と東方の横並び一列と、いつの間にか人のいなくなっていた千石の隣席を除き、先程と同じように、一瞬の間に津波注意報と集中豪雨と暴風警報発令と思しき規模

の嵐を経験していたのだった。

 

「そっれがまた、ヒンヤリしてて、でも柔らかくって、すっごい気持ちいいんだよね〜!!」

 そんな、笑顔でキスのご感想など宣わないで下さい・・。

 すでにD2コンビは半泣きである。

 何が悲しゅうて、この思春期まっただ中の多感な時期に、親友の尋常ならざる恋のステップアップの模様をリアルタイムで聞かされなければならないのだろうか。

 いや、だからと言って、10年後辺りに『実は・・』などと大告白されても、南と東方のリアクションが変わったとも思えないのだが。

「やっぱり照れ屋さんだから、今度も不意打ちかなぁ〜・・って、あぁぁぁぁっ!!!」

 魂が飛び立ったままだった食堂、窓際一帯。

 そこに、再び衝撃が走ったのは、恐ろしいほどに身軽な身のこなしで、窓枠をヒラリと飛び越えていった千石の背中を成り行き上、視線が追ってしまい。

 

 

「あっく〜ん!!あぁっく〜ん!!お〜い!!待って、待って、待って〜!!帰るの!?帰っちゃうの!?じゃぁ、一緒しようよ〜vvね〜、あっくん〜☆」

 

 

 子犬の如く、無邪気な様子で。

 ・・学年で1・2を争う有名人。

 千石とタメ張って、まず負けることはないであろうと言われる曰く付きの、銀髪に駆け寄り、その上、真後ろからその背中にタックルを掛けたオレンジ色の頭にムン

クの叫びと化した、無関係の食堂ご一行様であった。

 

「おい、まさか・・千石のって・・」

 

 そして。

 どこか絶望的な南の声が、食堂に重く響いたのだが。

 

「言うな・・言ったら、全員討ち死にだ・・」

 とりあえず、答えてくれたのは、気丈にも意識を保ったらしい東方だけだったそうな。

 

 

 

 でもさ、そんな声くらいで・・この恋は、止まらない。

 

 

 

END


前回の『君は僕を好きになる!!』続編です。

今回は、千石さんが大暴走です。(笑)

そして、これはもう運命なのか天誅殺なのか、当然のごとく犠牲者は、南くんと東方さん。

そして、食堂にいた一般生徒さんですが、ホントにお気の毒で。(><)

計算でやってるのか、天然でノロケたいのか、ちょっと見、パッとは悟らせてくれないカンジが、千石さんのイメージです。

(そして、それが白キヨと黒キヨの分かれ道!!)

次回は、ガバァァッ(笑)と抱きつき(もとい襲撃)にいった千石くんと、哀れなターゲット『あっくん』のお話になります♪

よろしければ、またおつき合い頂けますと、とってもとっても嬉しいですvv

 

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