シャラシャラ・・

そんな音がさ、スゴク似合うんじゃないか、って思った。

あの、銀色の髪には、ね。

 

 

君は僕を好きになる!!

 

 

 トトトト、トンって昇った階段。

 鼻歌は、ちょっと懐かしいABA。

 なんか美味しそうなドラマの題名と一緒に流れてた曲で、ハハオヤの趣味でちっさい頃に覚え聞いた記憶が懐かしかった。

「・・そんでも、男だったら、好みはジェニファー・ロペスっしょ〜?」

 世界で一番綺麗というデーヴァ。

 彼女のヒットチャートも漏れなく耳に旋律が刻まれているのを思い出しながら。

 キィ・・と、派手に壊れた鍵がぶらさがったままになっているドアを開けた。

 誰がここまで豪快に破壊工作したのか知らないが、少なくとも前回来た時は、階段の下で逢った小麦色した肌の、体育の新卒のセンセに、ヘアピンを一本頂いて、用を足した筈。

 う〜ん、でも、見れば見るほど、力業、ってカンジ?

 ま、イイけどね〜。

 

「わぁお、これはまた、ゴージャスだね〜♪」

 

 扉を開けて、真っ青な空の下。

 眩暈がしそうな程に白い雲と同じ色の制服をテキトーに着た、そんでもってえらく・・そう、思わず触ってみたくなる位に白い肌の人間が、屋上の鉄柵にもたれて眠っていた。

 袖口から覗く肌も、ここまで白いと、それを包む白ランすら、自分が着ているものとはおよそかけ離れたモノのようにすら見える。

 人気の絶えた屋上の、ムキ出しのコンクリートに座り込んでいるのに、汚れた素振りさえ見せない・・そんな潔癖さだ。

「ふぅん・・地毛も色素薄いみたいだから、抜かずに染めたっぽいなぁ。」

 猫のように足音もなく、その人物に近づき、そっと背をかがめると、腰に手を当てて。

 クスクスと笑い出す。

 

「聞こえてるなら、起きてよ?・・ダメ?起きらんない?」

 

 まだ名前も知らない、この一見、強面の少年の髪に、ふわりと声を掛けた。

 案の定、言葉の意味までは届いていないのだろう。

 気配だけを察知して、スッと眼前の眉間に皺が寄った。

 ・・ビンカンな子だねぇ。

 

「じゃぁ、もうちょっと寝ててもイイよ!オレも実は眠たいから、隣、お邪魔するね〜♪」

 そして、イイとももちろん返ってこない反応はおいといて、自分も白い制服を気にすることなく、しゃがみ込む。

 背中をつけた冷たい柵からは、錆びた鉄の匂いがした。

「ん〜・・ついでに、肩も貸してね?キミ、オレより随分体格イイみたいだから、ま、大丈夫っしょ!」

 言葉通り、ついで、というカンジでポスッと頭を横にもたせかける。

 少し近づいた距離に、微かにミントのような整髪料が香った。

 

 首を傾げただけで預けられる頭が、彼との身長差を教えてくれた。

 

 

 

「・・・???」

 

 ふいに、覚えのない温度と、感触と、嗅覚を擽ったナニかに引かれるように、耳の奥でキン・・と音がした。

 それでも、人っ子一人いなかったこの空間では、いちいち目を開けて確認するような事態も起こる筈がなく。

 そういえば、手刀一発でブッ壊れた鍵の特権を独占していたことを、ふと思い出し。

 

 ・・だったら、ンで、右肩が重いよ?と少し不機嫌になった。

 

「テメェ・・?」

 

 騙し騙し目を開ける。

 すると、鼻先を、ふうわり、とナニかが擽った。

 綿毛に、顔を埋めたみたいに、こそばゆくて仕方ねぇって感触だ。

 

「???」

 

 なんだ、コイツ?

 それが、最初に思ったこと。

 あまりに自然に頭を預けられてて、肩先のソイツを振るい落とすのも忘れて、怪訝そうな顔をしたような気がする。

 

「・・んぅ?あぁ、起きたんだね。」

 顔に息がかかったからだろう。

 ソイツが、寝起きとは思えない早さで目を開け、しゃんとした口調でしゃべりだした。

「るせぇ・・。テメェは何だ?・・っつーか、どけ。」

 今度は容赦なく肩から頭を叩き落として、ついでにゲシ、と足蹴にしておく。

 白いスラックスに、真新しい上靴の跡が付いた。

「あっ、ヒッド〜イ!!・・って、まぁいっかぁ。肩借りちゃったしね。オアイコ、お相子♪」

 パタパタとズボンを払うと、忌々しいことに、乾いた埃しか付着してなかった上靴の底の名残は、簡単に屋上の上へと広がって消えた。

 チッ、泥水でも踏んどきゃよかった、などと。

 どうでもいいようなコトを考えていると。

 

「そうそう、キミ。」

「・・あぁ?」

 

 いきなりキミ呼ばわりされて、ビキッと白い額に青筋が浮く。

 眼差しでヒトが殺せるなら、即死は免れないような眼光だったが、目の前の男はちっとも気にしていないようだった。

「?そんなに睨まないでよ。ところで、名前教えて?あ、オレから名乗った方がイイ?」

 唐突な男だった。

 にや〜っと、緩んだ笑顔らしきものを浮かべて、その男は首を傾げて見せた。

「・・知るか、ンなコト。さっさとどっか行きやがれ。」

 教えてやる義理も義務もねぇ、とばかりのつれない返事に。

 しかし、めげない図太い男。

「え〜!?じゃぁ、勝手に呼んでもい〜?ね〜、銀髪クン!!」

「ボケたコト抜かしてんじゃねぇ。いいから行けよ、オラ!!」

 ドカッと、いつの間にか横から移動して、自分の目の前に四つん這いになってる男に蹴りをくれてやる。

 が、それでひるむ相手じゃなかったようだ。

 

「脚癖悪いのも、イイカンジだね☆目つきも生意気そうで、そそるし。声も耳元で聞いててゾクゾクする〜♪」

 

 まるで歌うように。

 けれど、ほざいた言葉の意味を取ろうとして。

 思わず鳥肌が立ったほどに気味悪いコトを抜かしたこのヤロウは、ニコニコと音さえ聞こえてきそうな笑顔を浮かべていた。

 

 てか、ザワッと背筋に悪寒のようなモノが容赦なく走る。

 

「失せろ、ウザイ。」

 とりあえず、不気味なモンには近づかないに越したこたぁねぇ。

 んなトコに地球外生命体がいるってのもアレでナンだが、この際、そのヘンは目をつぶってやることにした。

 

「ん〜、照れ屋さんだなぁ。ま、いっか。えっとね、オレはキヨスミ。」

 テキトーに呼んでくれて良いけど、キヨって呼んでくれると嬉しいなぁ。

 にへらぁと。

 反吐が出そうなほどの笑顔が、鼻先5cmにある。

 ぶぎゅっとそれを手で押しもどしてやろうと思ったが、なんかに感染したらヤバ気なので、ヤツがのし掛かってる右膝を跳ね上げた。

「おわっ!!アッブナイなぁ!!・・でも、チョー綺麗な骨格♪」

 間違いなくヒットしたと思った脚を、ガシッと掴まれた。

 そして、さらに2cmばかり近くなったニヤケ顔。

 ゲ、息がかかるっつーの!!

 

「どけ。離せ。消えろ。むしろ、消え失せろ。」

 目の前から消えた挙げ句に存在自体、消滅してしまえ、とばかりの剣呑なセリフと眼光。

 ところが、目の間のヘンな生物はニヤニヤ笑ってるばかりで、そのどちらにも従う気は毛頭なさそうだった。

「やだよ〜!!せっかくこんなメチャ人体模型か標本みたいなキレイキレイな骨格に出会えたのに、もったいない!!」

 でも、内臓は真っ黒そうだよね〜、などとヌケヌケとほざく詳細不明の不思議物体。

 今にも空でも飛びそうで、不気味なことこの上ないソレは、ベタベタペタペタ人の、それこそ抱え込んだ右脚やら、頭やら、腕やら肩やら、遠慮のえの字もなく触りまくる。

 

「チッ、ヤバイのは顔だけじゃねーのか。オラ!!どけよ、この、イカれボーンコレクター!!」

 名前なんぞ覚えてやる気もないので、とりあえずこの生物を抹消しようと、鼻先にある顔を今度こそ手で押しやる。

 うお、なんか免疫さえ出来そうにない気がして、嫌なことこの上ない。

「イタタタ、そんなに力一杯押さないでよ〜!!あ、でも指も長いし、骨!!節!!いいね〜vv」

 コイツ、マジでイカレてんのか???

「アレ?どしたの〜?眉間の皺が消えてるよ〜?」

 

 でも、その方が可愛いね。

 

「・・はぁ?」

「うん。なんか、ちっちゃいコみたいで、すっごい無防備!でね、でね、ホラ・・」

 

 隙だらけ、ダヨ〜♪

 

「…!!??」

 

 うちゅ・・

 

 唇に、目の前3cmにあった、それが触れた。

 

 

 

「・・・!!!」

 ガッと目を見開くと、すぅっと上がってきた手が、頬を包んだのが分かる。

 そのまま、チュチュチュ、と恥ずかしい音を立てて、ヒトが呆然としているのをいいことに、少し顔を傾けた男の唇が何度も触れてくる。

 

 ・・げっ。

 

「テメェ・・!!」

「う〜ん、テメェじゃなくて、キヨだよ〜♪・・っていうか、銀髪クン、唇や〜らかい☆気持ちい〜☆もっかいしてイイ?」

 

 いいわきゃねぇだろう!!

 

 心の中で叫んで、同時に手が出る。

 ニヤニヤ笑いの横っ面を張っとばしてやろうと思ったが、憎たらしいことに、ヤツはそれを揚々と避け腐った。

 

「足癖も手癖も悪いんだね〜?うん、うん。元気でよろしい♪」

 

 ナニ者だ!?

 コイツ、やべぇ…!!

 あぁ!?

 ナニがって、全部だ、全部!!

 

「・・っと、冗談はここまで。そろそろ名前、教えてくれないかな?」

 教えてくれたら、離れてアゲル☆

 と、嬉しくもないウィンクを寄越した危険物マークの付いた人間は、へら〜っと笑いながら、ヒトの手首をねじり上げて、脚を脚で押さえつけてくる。

 俺よりチビな癖に、どこにンな馬鹿力、内蔵してんだ!?

 クソ・・!!

 

 

 

「・・亜久津、」

 

 これ以上、どうこう付き合うのもバカらしくなって、投げやりに答える。

 

 

 

「アクツ?・・格好イイ名字だね〜!!下の名前は?」

「・・ルセェ。教えてやったんだ、どきやがれ。」

 そこまで付き合えるか、と。

 とりあえずフイ、と横を向いて顔をそらす。

 

 つーか、息がこそばいっ!!

 

「んん。生意気なのも、好み〜っ♪」

「はぁっ!?」

「いやいや、こっちのハナシ☆・・でさ、教えてくれないんなら、アクツくん。」

「・・んだよ・・」

 マジッと、急にニヤニヤ笑いを引っ込めた男に、亜久津が肩を強ばらせる。

 四肢を捕らえられているのだから、それくらいしか出来ないというのが、心底ムカツク。

 

 

 

「アクツだから、あっくん、でイイ?」

 

 

 

 にこっ、と。

 罪の意識もなさそうに破顔した男に、亜久津が絶句する。

 

 あ・・あっくんだぁぁ!?

 

「フ、フザケんなっ!!」

「え〜?ふざけてなんかないよ〜!!それとも、あっちゃん、の方がイイ?」

「なお悪いわ!!」

「じゃぁ、やっぱ『あっくん』で決定!!」

「決めるな!!呼ぶな!!関わるな!!」

「も〜、ワガママだなぁ。あっくんは☆」

 

 で、そこで楽しそうに笑うんじゃねぇ!!

 ったく、なんなんだ、コイツは!?

 

「…シメる…」

「おや、デンジャラスだなぁ♪・・ま、あっくんが教えてくれないなら、調べるまでだし!!」

 あはは、あっくんのが非力だから、ムリ☆とか抜かして。

 うんうん、なんか知らんが、勝手に納得したらしい男は、パッといきなり体をどけた。

 途端に、かかる重圧がなくなり・・

 

「・・調子に乗んな!!」

 

 バッと、間髪置かずに足払いをかけて、ヤツの上体が浮いた瞬間。

 右腕を軸に、下から蹴り上げて、遠くにブン投げる。

 ・・チッ!!

 

「や〜ん、あっくんったら、結構、大ワザ使うのね〜!!」

 スタン、と訳なく屋上に着地した男は、奇妙なカマ言葉でニヤリと笑う。

 どういう神経と身のこなしだ、そりゃっ!!

 ナニからナニまでデタラメ臭ぇな、オイ。

 

「とっとと行け!!」

「はぁ〜い♪・・じゃぁね、あっくん!!」

 ようやくヘンなのが行った、と思ったら。

 

 ブンブン手を振ってたソイツは。

 更に、ついでとばかりに。

 つい、と踵を返して。

 ・・下唇に噛みついて行きやがった。

 

 

 

「引っ返して来んじゃねーっ!!!!」

 

 

 クソ、忘れてたいらんことまで思い出したじゃねぇか!!

 

 

 

 そうして。

 額に青筋立てながら、熱を持った頬と唇をガシガシこする亜久津と。

 上機嫌で階段を降りていく、亜久津にちょっかいかけた自称『キヨ』。

 

 

 

人様が知ったら、

『ホントに調べるつもりなの?』

『・・もちろん!!』

 ってなカンジの。

 

 

 

 そんな、こんな、の。

 ・・二人の出逢いでした。

 

 

 

 

 

END


亜久津くん、未知の生物とご対面。

割と突発的事項に弱そうなので、ふいを突かれていろいろされちゃってます。(笑)

千石さんは不思議くん?(爆)

世の中の裏の裏まで知ってるよ〜って、アハハ、それじゃぁ表しか知ン無いよねぇ♪ってなカンジの思考回路のお人。

これから、さぞかしあっくんのテリトリー及び生活をかき回してくれるでしょう。

(むしろ、かき回す気満々)

裏はあるけど、それを楽しんでる中学生。

千石清純、ただ今14歳。(笑)

青春謳歌中。

 

 

 

 

 

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